累は手芸部の部室でソファーに座りみかの頭を撫でていた。その撫でられているみかはというと、累の膝を枕にしてすやすやと眠りについている。

この部屋には今二人しかいなかった。
宗となずなはレッスン室にて練習中である。
みかだけは連日のレッスンの疲れで累に甘えているうちに寝てしまい、宗もこれ以上のレッスンは体に良くないと判断してそのまま放置し累に預けてレッスンに行ってしまった。

宗たちがレッスンに行ってからもみかが起きる様子はなく、累は静かにみかのことを見守っていた。
一時間ほど経過して宗たちがレッスンから戻って来る。みかがいないために早めに切り上げて来たようだ。

「全く行儀が悪いにも程がある。こんなところで寝るなんて体を痛めても知らんぞ」

帰って来て早々未だに眠っているみかを見て宗は呆れたようにそう言った。

「そう言いながら起こさないところは優しいわよね」

クスクス笑いながら累が返すと宗は眉間に寄せた皺をさらに深めて怒りをあらわにする。

「…んあ、」
「あら、起こしちゃったわね」

二人の声で目が覚めてしまったようだ。みかはゆるゆると瞼を開けた。

それからゆっくりと起きあがり、ぐるりと辺りを見渡して、怒っている宗と目が合い、顔を青ざめさせた。

「やっと起きたか、出来損ない」
「お、俺もしかして寝てたん?んあ、練習はっ」
「とっくに終わったよ」
「んああっ!お師さんごめん!」

途端にみかは慌てて謝る。
そんな焦るみかを落ち着かせるように累は頭をぽんぽんっと撫でた。

「大丈夫よ、みか。本当に練習に出なきゃいけないなら引きずってでも連れていかれたはずよ。そうしなかったってことは宗が休んでもいいって言ってくれてるようなもんだわ」
「勝手に解釈しないでもらえるかな!」

みかが相変わらず二人は仲が良いなあと眺めていると、なずながいないことに気がついた。みかが眠りにつく前はいたはずで、宗と一緒にレッスンへ向かったはずだった。

「あれ?なずなにいは?」
「先に返したよ。貴様の風邪をうつされても困るからね」

宗のその声にみかはうっと言葉を詰まらせる。
確かにみかは体調が悪かったのだ。それを隠していたはずだったが、みかのメンテナンスをしている宗が僅かな違いに気づかないわけがなかった。

宗はレッスン前に累の膝で寝てしまったみかを見て今日のレッスンは休ませようと思った。これが一人なら叩き起こしてでも連れていっただろう。言葉にはしないが、心配だからだ。もちろん練習時間は短縮しただろうが、みかが迷惑をかけたと気負わないように練習していたと思う。
しかし累がいるなら何かあっても安心だし、みかのフォローもしてくれると思った。だからなずなだけを連れてレッスンに向かったのだ。基本的に累に対して当たりが強い宗だが、信頼だけはしている。

「体調悪いならちゃんと言わなきゃだめよ、みか」
「でも迷惑かけたないし…」
「無理をして悪化する方が迷惑なのだよ…まあ今回は僕の体調管理ミスだ」

宗はみかの方に近寄るとおでこに触れて彼の体温を確認する。

「ふむ、熱はなさそうだ」
「たぶん大丈夫だと思うけど心配だから今日は早めに帰りましょう」
「影片、食欲はあるのかね?」
「んあ、あんまないかもしれへん」
「お粥とかの方がいいかもしれないわね」
「言われなくとも分かっている」
「なんか、お師さんと累ねえ、オトンとオカンみたいやあ」

自分の心配をしてくれる二人を見てみかは自然とそう思った。それはよく思っていることだったが、そんなことを言ったらまた口喧嘩が始まるのではないかと心のうちに留めていたのだが、体調が悪く気が緩んだせいで自然と口から出てしまった。

「なにそれ、どちらかといえば宗は口うるさいし、お母さんじゃない?」
「こんな出来損ないを産んだつもりはないが」

しかし意外と口喧嘩には発展せず、累はからかうようにクスクスと笑っていたし、宗は呆れたようだった。

「なずなにいはお兄ちゃんがええなあ」
「減らず口を叩いていないで行くぞ」
「あっまってえなお師さん」

宗は一足先に部屋を出て行こうとする。それを慌ててみかが追いかけ、累も元気そうなみかに安心しながらその後を追った。

「なあなあ、累ねえ手え出してくれへん?」

帰り道にふいにみかが言った。
疑問に思いつつも手を差し出すとそれを握られる。

「んで、お師さんも手、出してほしいなあ…って思うんやけど…」

それから恐る恐ると言ったように反対側にいた宗にも声をかける。
なんとなくやりたいことを理解した宗は、少し手を出すのをためらったが、はあとため息を一つ吐きながら手を出してやった。
するとぱあっと瞳を輝かせておおきにとその手を握るみか。片手は累、片手は宗と手を繋ぎ、気分は両親に手を繋いでもらってはしゃぐ子供だった。
体調が悪いことをいいことに珍しく甘えるみかに累
も宗も怒ることなんてできず、嬉しそうに歩くみかを真ん中に帰宅するのであった。




20170531
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