「朱桜、遅れてるわ!」
「Stop!待ってくださいもう限界です!」

ゼイゼイと息をした司は累にストップをかける。なお、全員同じ動きをしていたのにも関わらず、息を乱しているのは司だけだ。

「かさくん情けないよ〜これくらいついてこれないと」

泉は汗1つかいていないような顔で司を見下ろす。

「まだ一年生の司ちゃんに求めすぎよ〜。一度休憩を入れましょう!」

既に合流し、練習に加わっていた嵐が声をかけることで仕方なしというように泉は輪の中を外れた。その実、泉はこんな態度をとっていても司が限界なことはわかっていたので、嵐が声をかけなくても先に声をかけていたはずだ。素直じゃないのが彼らしいところである。

「やっぱり大丈夫です、まだ行けます!先輩たちに追いつくためにはこれくらいでへこたれているわけにはいきません!」

それに司はぎりりと歯を食いしばって真っ直ぐ立って見せる。プライドの高さが限界の司を気力で動かしていた。
しかしそれに累は首を振る。

「いや、休憩するわ。これは朱桜の体力を考えなかった私のミスよ。だから休みなさい」

そう言って累自身も休むために輪から外れていった。

「はい、おつかれぇ」

すかさずスポーツドリンクを差し出したのは泉だ。相変わらず累に対して優しさを見せる泉を気味悪げに見ながら、彼からスポーツドリンクを受け取った累はゴクリと飲み干す。休憩も取らずに数時間続けてダンスレッスンをした体に染み渡るようだった。

つい、力が入ってしまった。それくらいこの曲が魅力的だったのだ。それは他の皆も同じなのだろう、泉も嵐も明らかに休憩を入れるべきところで声をかけなかった。司がいなければレッスンは続けられていたかもしれない。

累が休憩していると、司が気まずそうな顔でやってくる。

「本当に申し訳ありませんでした……」
「そろそろ休憩すべきだったし私が悪いって言ったでしょ?しつこいわ」
「なっ……いや、ここで争うのはnonsenseですね」
「私が悪いと言えば私が悪いんだからお坊ちゃんは気にしないの」

司は累が謝罪を受け入れなかったことが気に入らなかったようだが、累に頭をわしゃわしゃと撫でられて大人しく黙る。

「め〜くん、意外とス〜ちゃんに甘いんだね」

声がした方を見ると、レッスン室の隅に転がっていた凛月が、いつの間に起きたのか床に肘をついてこちらを見ていた。

「あら、起きてたの?ていうか意外ってなによ」
「ん〜?ス〜ちゃん、結構失礼なこと言うからもっと冷たくしててもおかしくないと思って」
「後輩にまで冷たくしないわよ。それに頑張ってるみたいだしそんな子まで蔑ろにしないわ。一応ね」
「一応って…!」
「え〜、俺も後輩じゃん」
「あんたは同い年でしょ」

じろりと睨みつけると凛月は怖〜いと全く怖がりもしていない様子でくすりくすりと笑った。

「というか凛月先輩はいつまで寝ていらっしゃるのですか?!広瀬先輩からも何か言ってください!」

未だに立ち上がりすらしようとしない凛月に司が怒りをあらわにする。確かに今日凛月がしたことといえば司を捕まえて累にちょっかいをかけたこと以外は寝ていただけである。
いい加減累もそれにうんざりして怒り出してもおかしくはないはずだ。

しかし累は、ちらりと凛月を見てそれから、

「いいわよ、放っておきなさい」

と、言って立ち上がる。

「なぜですか!?」

納得いかない司は驚いたように累に問いかけるが累は無視して自主練へと向かった。

累だって参加できるならしろと言いたい。けれど知っているのだ、本当に調子が悪いのだろうことを。きっと凛月の兄である零がそうだったように。それを口にすると凛月が怒るだろうからめんどくさいので言わないだけで。

鏡の前に立って一人、レッスンを開始する累。嵐がもってきた仕事ではあるが、イメージの都合上メインは累である。他に劣るようなパフォーマンスは見せられない。

「今の動きすごいかわいいわァ!さすが累ちゃん!」

ダンスを再確認していると後ろから嵐の声がかかる。

「ターンの時に髪が広がるのがいいわァ。素敵!」
「よくよく考えれば私が手伝わなくても鳴上がメインでよかったんじゃない?」

確かに嵐と累は全く一緒というわけではないが、大まかな分類をすれば同じに当たるはずだ。わざわざ累に頼まなくても、嵐がメインで構成すればいいはず。
しかし嵐は累の発言に眉を下げながら首を振った。

「ファンが求めてるのはknightsの私でしょォ?だから累ちゃんにお願いしたの。それに私にふりふりの衣装なんて似合わないのよ……無駄に体がでかいのも困りものだわァ」
「ああ、確かに鳴上ってガタイいいわよね」
「気にしてるんだから言わないちょーだい!」

ぷんすこと怒った風にムッとする嵐はとても女の子らしい。衣装なんて宗にでも頼ればその体系をカバーできるようなものを用意できるだろう。しかし嵐の意思はテコでも動かないように見えた。
他人になんと言われようが己の道を突き進む累は、自分の意思を飲み込む嵐にどこか否定的になりつつも、完璧でないものを見せたくない、ファンの期待に応えたいという嵐の意見を否定はできない。

「あんまり自分を否定しなくてもいいと思うわ。鳴上はとても綺麗よ」

確かに可愛いというには難しい。けれど、美しい、綺麗という言葉は嵐にとても似合っていた。それはお世辞でもなんでもない素直な累の言葉だった。
累に褒められた嵐はパチクリと目を瞬かせる。普段冷たい言葉が多い累の口から褒め言葉が出るとは思わなかったからだ。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「だって〜!累ちゃんいーっつもクールなんだもの!でも…ふふ、ありがとう」

嵐は嬉しそうに笑った。


20200418
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