「ごめん、誰?」

時間は記憶をなくした累の元に奇人たちが集まるまえに戻る。
夏目は秘密の部屋に入るや否や時計が止まったかのようにピシリと体を固めた。不安げな瞳でこちらを見るのは確かに自分の尊敬する先輩であり、間違いはないのだが、その彼から発された誰?という発言に驚きとショックが隠せなかったのだ。

「えっと、あの、」
「累、ねえ、さん?」
「ええ、そう。私は広瀬累よ」

間違い無く、彼は夏目の知っている累のようだ。しかし、何かがおかしい。いつもならもっと堂々とした態度であるはずの累だが、今の累はどこか、弱々しい、そうまさに女の子、のようだった。

「ふむ、なにが起きたんだろウ」
「えっと、私は、あなたとどういう関係?」
「先輩と後輩、かナ。参ったな、本当に覚えてなイ」

少しずつ自体を飲み込み始めた夏目はひとまず部屋の中を見渡した。しかし、何か変わったこともなかったし、それに、自分が所持していた薬品で累の記憶が消える代物はなかったと記憶している。

「ボクの名前は夏目。何か覚えていたりすル?」
「あなたに関してはなにも」
「自分のことはどこまで覚えてル?」
「なんとなく、なら。でもわからないことの方が多いわ」
「記憶喪失ってところカ…。原因はこの部屋にあってもおかしくはないけれド。僕自身に心当たりはないシ…」

口元に手を添えながら考え込む夏目。
その間、累はソワソワと視線を彷徨わせる。自分のことすらよくわからず、どうしたらいいのかもわからない。不安でいっぱいの累は、身を小さくして夏目を見つめることしかできなかった。

「名前以外にわかることハ?」
「えっと、家族とかはわかるわ。でも、学校のことは少ししか思い出せないの」
「夢ノ咲がどんな学校かハ覚えてル?」
「アイドルを育てるところ、私もアイドルだったのよねきっと。少しだけ、覚えてるけど、あんまり…」

自信のなさから累の声は尻すぼみになっていく。胸の前ある両手は強く握りしめられていた。

「あの、ほんとに、ごめんなさい、何もわからなくて、その、」

焦りのあまりか累の目には涙の膜がはっていき、ついには滴が溢れ出してきた。
それに焦った夏目は累に駆け寄り、

「っごめん、累ねえさん。何もわからなくて不安だったよネ」
「泣くつもりは、なかったのに、ごめんなさい、」
「こっちこそ気を使ってあげられなくてごめんネ」

ポロポロと涙を流す累。その弱々しい姿に夏目は、とても擁護欲をそそられる。ああ、守ってあげなければと。
握りしめた両手に自分の手を重ね合わせる。それに気づいた累はそっと視線をあげた。

「大丈夫、ボクは累ねえさんの味方ダ」

その言葉に累はこくりと頷いた。
その累を見ていた夏目の顔は真顔で怖かったことを知る者は誰もいない。


20190314
(ねえさんガチ勢の夏目)
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