外部でのライブを終え、薫は楽屋へと戻ってきた。今日はプロデューサーのあんずも一緒に来ている。ライブを頑張ったしいたわってもらおうと、楽屋に入るなり彼女の姿を探した。
しかしそれを遮るように、目の前にタオルが差し出された。

「はい、おつかれさま」

あんずかと思い少しだけ期待したが、聞こえてきた違う声に薫は驚く。

「え、あれ、なんで累がいるの?」

そこにはいるはずのない累がそこにいた。
たしかに累も今日のライブの出演者ではあったが、彼にも楽屋が与えられていたはずだ。いつもの累は零を毛嫌いしてこのUNDEADの楽屋には絶対というほど足を踏み入れない。だから薫は驚いたのだ。

「あんたがあんずに何もしないか見張りよ。私は女の子の味方だもの」

累のその発言にあんずは大きく何度か頷いた。
顔を見合わせて笑顔を交わす二人はとても仲良しに見えた。昔から薫の女の子の友人と仲良くなることが多かった累だが、あんずもまた然りのようである。

「累〜!なんじゃ、我輩をいたわりにきてくれたのかえ〜?」

累が薫の相手をしていると、少し遅れてきた(薫がほかのメンバーに比べて早すぎただけだが)零が楽屋に到着した。彼は累を見つけるやいなや嬉しそうな笑顔を浮かべて一直線に累に向かう。

「ちっっっがうわよ!!あっ馬鹿!汗拭かないまま抱きつかないで!!」

累はそばにあったタオルをひっつかんで迫りくる零の顔に押し当てた。彼はぐふっとくぐもった声を出しながら落とさぬようにそれを受け取る。ぞんざいな扱いを受けたのにもかかわらず、タオルをどかしたあとから見えたのは、ステージでは見ることのない緩みきった零の笑顔だった。

「珍しいのう、UNDEADの楽屋におるなんて」
「別に今日はあんずがいたから」

素っ気なくそう言った累は零から逃げるようにその場を離れた。
向かった先はあんずがタオルを渡している晃牙とアドニスのところだった。

「晃牙、今日ステップずれてるところあったわよ」
「うるせえ、言われなくてもわかってるっつの」
「アドニスは前回言ったところ、よくなってたわ」
「よかった。広瀬先輩のアドバイスにはいつも助けられる」

実は累はUNDEADのライブにはよく足を運ぶ。それは友人の薫と、まあ一応友人の零がいるからで、彼ら以外のメンバーとも親交を深めていた。
性格上、晃牙とはぶつかり合うことが多いが、晃牙も累に関してはある程度認めているところがある。アドニスに関してはほかのメンバーが認めている累と仲良くなることに問題などなかった。

「ごめ〜ん、俺今日用事あるから先帰るね」
「あんずがいるのに珍しいじゃねえか?」
「ちょっと外せない用事でね、あんずちゃんごめんね〜!今度埋め合わせはするから!」

両の手を合わせながら薫はあんずに謝る。しかし、別に何か約束をしていたわけでもないし、むしろ薫のことを苦手としているあんずは逃げるように数歩引いていた。

「ははっ、じゃあお先に」

そんなあんずの反応に、いつものことであるからとなれてしまった薫は、特に機にすることなく、ひらりと手を振って早々に楽屋を出て行ってしまった。この後何があるわけではないので問題はないし、あんずに構わず出て行くほどの用事があるのだな、というのがUNDEADのメンバーならびにあんずの認識である。

しかし累は違かった。
薫に続くように、

「薫がいなくなったしあんずはもう大丈夫よね。私も帰るわ」

そう言って早々に楽屋を出て行く、

「累〜、もう少しゆっくりして行ってもいいんじゃよっ…ぐふっ」

引き止めようとした零を蹴り飛ばすのを忘れずに。




「薫、」

累は楽屋を出るとすぐに薫を追った。薫が出て行ってからそんなに時間は空いていなかったため、楽屋を出て、すぐに追いつくことができた。

「あれ、どうしたの、累〜?」
「私は誤魔化されないわよ?」

じっと薫のことを見つめる累に、彼は3秒ほど時間を置いてから、

「やっぱバレてたかあ」

と、肩の力を抜いた。

「あんた、調子悪いなら悪いでちゃんと周りに言いなさいよ」
「だって今日、あんずちゃんがいるんだよ?そんなこと言えないじゃん」
「そんなことだろうと思ったわよ。本当にあんたはねえ」

薫の足を蹴りながら累は怒りをあらわにする。相変わらず足癖が悪い。病人だとわかっているのでいつもより幾分も手加減されているようだが。
こうやって怒っているように見せていた累だが、彼が自分を心配していることを薫はよくわかっていた。そうじゃなかったら零がいる楽屋になんて累は来ない。逆にいうと、自分の嫌なことよりも自分を優先したと考えると、薫は少しだけ嬉しくなってしまった。

「何笑ってるのよ」

自然と緩んでいたらしい頬を累に指摘される薫。

「いや、累は素直じゃないなあと思って」
「…うるさいわねえ」

自分の考えが薫にお見通しなことなんて累にもわかっていた。
否定せずにツンとそっぽを向いた累は、薫の袖を弾きながら歩き出す。

「ほら、帰るわよ」

そんな累を見て、薫の頬はまた緩むのだった。



20190116
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