指に痛みを感じて累は裁縫をしていた手を止めた。ぼうっとしていたせいで指に思い切り針を刺してしまったようだ。玉のように血が浮かんできて赤色に染まった。累はそれを拭うことなく、ただじっと見つめた。
赤色、というと夢を思い出す。以前気にしないと決めた累ではあったが、どうしてか心に引っかかって忘れられない。そのせいでもやもやとした気持ちを抱えていた。

はあ、とため息を一つ。らしくないのは分かっていた。いつもなら気にしない。なのにどうして、こんなに気分が晴れないのだろうか。
そんな風に思いながら累がまたため息をつこうとした時だった。

「血の匂いがする…」

驚いて後ろを振り返るとギラリとした赤い瞳と目が合う。彼はにやりと笑みを浮かべると、累の手首をがっしりと掴んで、滲む指先の血を見つめた。

「いただきます…☆」

礼儀正しくそう言った彼は、累の指先を口に含んだ。ぬるりと舌が指を這う感覚に累はいそいで手を引いて距離をとる。ぞわりと背筋を泡立つ感覚に不快感を覚えながら累は彼を睨みつけた。

「っなにすんのよ、気持ち悪い…!」
「う〜ん、まあまあかな」

彼は累の言葉を聞いていないようで、累の血の味の感想を述べた。

「兄者のお気に入りだったみたいだし美味しいかと思ってたんだけどな〜」

累には何もかもがわからなかった。
彼が誰なのかも、この行動の意味も、彼の言葉の意味も。
不快感だけが募るばかりだった。

「何も覚えてないなんて兄者も可哀想…とは思わないけれど。アンタには同情してあげなくもないかな。あんなやつ消えてくれた方がマシ」
「同情?何に対してよ。覚えてないってどういうこと?」
「教える義理はないけどそうだなあ…」

にやりと笑った彼は急に距離を縮めてきた。
それから累の耳元で、

「血をくれるならいいよお」

そう囁いた。
咄嗟に累は彼に対して蹴りを入れる。何かあると足が出るのは累の癖だったりする。その足の犠牲になった人は数知れず。それなりの精度と威力であるはずだった。しかし彼は簡単にひらりと避けてしまった。

「危ないなあ…」
「避けるんじゃないわよ」
「兄者じゃないし当たるわけないじゃん」

余裕の笑みを見せつける彼に苛立ちを覚えた。
それに加えてなぜか無性に彼の顔に苛立った。生理的に受け付けないというか、累の脳が彼の顔を否定していた。
その苛立ちをぶつけるようにさらに言い返そうとした時だった。

「な、な、何をやっているのですか…!!!」

大きな声が聞こえてバサバサという音が響いた。そのバサバサという音は、視線の先の声の主が手に持っていた資料を落としたからである。

「あれ、ス〜ちゃん、おいっす〜」
「Ladyになにをやっているのですか凛月先輩!!」

赤色のさらりとした髪をなびかせながら詰め寄る彼はどうやら累のことを女性として認識しているようだ。

それに気づいている詰め寄られた男はくすくすと楽しそうに笑い、それに対して累は不機嫌そうにしていた。

「大丈夫でしょうか?」

ス〜ちゃん、と呼ばれた彼は累を心配そうな目で見る。

「まず訂正しておくけれど。私、男だから」

冷たい声でそう告げる累。
それに対して体を大きく揺らし、彼は全身で驚きを表した。

「Boy?いや見た目はどう考えてもLadyにしか見えませんよ?私がおかしいのでしょうか?」
「なんなら胸触って見る?何もないわよ?」
「そんなLadyの胸に触るなんて…!」

驚く彼は累が男だと信じていないらしい。
累としてはちょっとした冗談だったのだが、まじめに返されて、めんどくさい、そう思った。
それに元々、あの赤い瞳の男にイライラさせられていたところだ。さらにイライラして、その矛先は目の前の彼に向かった。

「女じゃないって言ってるじゃない!」

累はそう言って苛立ちを孕んだ目で彼を一瞥すると、荷物をまとめてその場から離れた。
いつのまにか最初にいたはずの男もいなくなっており、場には混乱する彼が一人残されてしまうのであった。




20180812

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