少しだけ緊張しながら、累は軽音楽部の部室の扉に手をかけた。
静かに開いた扉から中を覗くと、真っ暗で静かな室内が目に入る。
そして、真っ黒な棺桶も。
きゅっ、と床と累の靴が擦れる音が、静かな部屋に響く。
がたり、と大きな棺桶の蓋が開く音が、また、静かな部屋に響いた。
「吸血鬼って言ってたけど本当にそうだったの?」
死んでいるように眠っている零を見て、累は思わず笑みをこぼした。
今までのことで言いたいことはたくさんあったけれど、
やっと、会えた。
その気持ちが強く出てしまって、柄にもなく笑みを浮かべてしまったのだ。
物音がしたせいか、零のまつげがふるりと揺れた。それからゆっくりと目が開いていく。
ふわふわとした視線がゆっくりと累のことを捉えた。
「おはよ、お寝坊さん」
累が声をかけると、零はゆっくりとした動きで累に腕を伸ばした。累の頬に手を添えながら零は嬉しそうに微笑む。
「んん〜夢かえ…?累がいるように見えるわい」
「ふふ、ざまあないわね、天祥院に負けて、そんな醜態晒して…昔のあんたはどこいったわけ?」
「……うるせえ、お前に言われたくないわい」
未だ半分夢の中なのか、口調が混ざっている零が面白くて累はクスクスと笑う。
「心配かけてごめんなさい。もう、大丈夫だから」
累は頬に添えられた零の手に自分の手を重ねた。
頬に寄せていた零の手がその手を握る。その温もりが本物だと確かめるように強く握りしめた。
「そうか…それなら…いい…よかった…」
ゆっくりと累の手を握る力が弱まる。
零はそのまま再び眠りに落ちた。
この学院のためにどれだけ頑張ったのか、目の前の零を見るだけでよくわかった。
「もう…、忘れないわ。ま、あんたのことは嫌いだけどね」
おやすみ、そう言って累は零の棺桶を閉じた。
「さて、覗き見してるのはだれかしら?」
棺桶の蓋を閉じた累がくるりと振り返って扉に笑いかける。
「うわわ、気づかれてた!」
「だからやめようって言ったのに…」
うっすらと開かれていた扉の先から似た声が二つ聞こえた。
観念したように大きく扉が開き、出てきたのは瓜二つの少年たち。
「初めましてかしら?」
「そうですね!俺たちは朔間先輩と同じ部活の一年生の葵ひなたと、」
「ゆうたです。気になるんで聞いてもいいですか?」
「「お姉さんと朔間先輩とどんな関係なんですか?」」
息ぴったりに累に詰め寄る二人。普段の累ならうるさいと跳ね除けていたかもしれない。
しかし、彼はうんんと少し悩んだように腕を組んでそれから、
「秘密」
パチリとウインクをしてとても楽しそうに微笑んだ。
「悪いけど零が起きても私がいたことは言わないでね」
「えっなんでですか?あんな朔間先輩初めて見たからちょ〜気になるんですけど!」
「お楽しみは後にとっておくものでしょ?DDDまででいいからお願いしたいの」
累がそういうと、双子達はお互い目を合わせる。それから言葉もなく言いたいことがわかるのか、同じタイミングで頷くと、同じタイミングで累のことを見上げた。
「DDDでなかするってことですか?面白そうですね!」
「俺たち楽しいことだあいすきなんです。もしよかったら、」
「「混ぜてくれませんか?」」
にやりと笑った双子はまるでいたずらっ子のようだった。
その笑みに累はようやくS1のステージ上の彼らを思い出した。ちらりとだけ彼らの様子を見たが、柔軟にステージを駆け巡り、場を盛り上げていた様子を。
もしかしたら、何かいい案がもらえるかもしれない。
DDDであの天祥院英智に目に物を見せてやるために。
累が双子と同じようににやりと笑うと、それで双子達にも伝わったらしい、イェーイと手を合わせて喜ぶ。
DDDまで、残り、一週間ーーーー…。
20181114