室内には重苦しい空気が流れていた。累が仁王立ちで冷たい視線を向ける先には、にこにこと、嫌に笑顔を浮かべる男が、椅子に座っていた。

「聞こえなかったみたいだからもう一度言うよ、広瀬累ちゃん。fineに入りなさい」

その質問は既にされていたものであり、累は別に聞こえなかったわけではなかった。
声をかけた彼もそれを知っているだろうが、あまりにも返事のない累に対して答えを求めるように繰り返したのだ。

しかしなおも累はだんまりを決め込んだまま。それにしびれを切らした小さな声が一つ上がった。

「ちょっとお!英智様が話してるんだから黙ってないでなんとか言ったらどうなの!」
「いいんだ桃李。僕だって一筋縄で行くとは思っていないさ」

ぷんぷんという効果音がつきそうなほど怒りを表した彼は累へと噛み付く。それを英智は笑みを浮かべながらなだめた。
それに累は顔をしかめる。

どうしてか、この男に対する不快感が消えない。指図されるのが嫌いなプライドの高い累にとって、この男の命令に近い言葉に嫌悪感しか抱かないのだ。

「まず、君がユニットを組んでいないこと、それが問題なんだ」

何を今更と累は苛立つ。
そもそも累は昔から一人でやってきていたし、ユニット制度など設けたのは生徒会が勝手にやったことだ。生徒の希望など一切入らない、生徒会の独断で作られた制度に縛られることを、累は認めなかった。
それに、

「ソロユニット、そんなもの無いとは言わせないわよ?」

累は知っていた。ソロユニットがこの夢ノ咲学院に存在していることを。

「確かに認めよう。ただ、あれは例外だ。君が該当するわけではない。誰にでもポンポンと例外を認めるわけにはいかないんだ」
「不公平じゃない。どうして私はダメなの?」
「そもそも、ソロユニットを生徒会は認めているわけではない。その例外をなくすために、君がアイドル活動するためにも、君にはどこかのユニットに所属してもらいたい。そう、生徒会からのお願いかな。べつにfineでなくともいい、紅月だっていいんだよ?」

まるで累のためにと言わんばかりの物言い。
しかしそれに絆される累ではない。

「最初は命令、だったくせに今度はお願いね。結局ソロユニットを認めない理由にはならないわ。例外がいる以上私は私を例外と認めさせるだけ」

それに、だ。さっき上げた両ユニットは生徒会勢力と言われる生徒会メンバーが所属するユニット。まるで累を自分たちの監視下に入れようとしているようなのだ。

「はあ、さっきから話が一向に進んでいない」

英智と累の話が平行線で終わらないことを見かねたのか、先ほどまで黙って話を聞いていた男が話に介入してきた。
彼は眼鏡のブリッジを上げながら、累に目を向ける。

「広瀬、生徒会に従わないことの意味をわかっているのか?」
「今度は脅し?生徒会って悪の組織みたいね」

可笑しいと言わんばかりに累はくすくすと笑いだす。
それに対して眉間にしわを寄せる男、また、英智は未だに笑顔を浮かべていた。
生徒会に従わないことはこの学院にいるに当たって不利益しか生まない。そんなことは累だってわかっている。
それでも累は、彼の道は、決まっていた。

「私は、何を言われてもあなたたちの物にはならないわ」

その言葉の後にちょうど、こんこんと生徒会室の扉が叩かれた。

控えめに開かれたドアからは累が知らない女子生徒の姿。おそらくこの春から転院してきた転校生だろう。
それからその後ろには三人の革命児。
先日生徒会勢力に勝利した彼らが生徒会室に呼び出された意味は少し考えればわかる。

彼らのことは累にとって関係ないこと。むしろ、自分を差し置いて勝利を掴んだ、敵とも言えないユニットだ。
なのに、どうしてか。
彼らが潰される様を見るのが怖くて、仕方がなかった。

「帰るわ。もう用はないし」

累は扉前にいる彼らを押しのけるように部屋から出た。


20181016
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