薄暗い会場はペンライトの色で綺麗に染まっていた。その中には累もいて、一応手にしたペンライトを降りつつ、ステージを眺めていた。
ステージでは以前に薫から聞いたS1が行われていた。過激で背徳的なユニット、UNDEDの名に相応しいパフォーマンスが繰り広げられている。
実は累は初めてまともに薫がライブに出ているところを見た。昨年は女の子と遊んでばかりでアイドル活動をしている姿など見たことがなかった。
そんな不真面目な薫と、真剣にアイドルと向き合っていた累がどうしてこんなにも仲良くなったのか、累自身もとても疑問だと今更思った。でも確かに薫の隣は気楽で、過ごしやすいのだ。
初めて見る薫のアイドル姿。意外と様になっていてびっくりする。まあ女の子の前で格好つけるのは彼にとっては朝飯前だろう。しかしそれだけでなく、歌もダンスも、累が想像していたより遥かに出来が良く、薫のポテンシャルの高さにびっくりしてしまったのだ。
それから、とても生き生きしているように見えた。昔の適当に遊んで過ごしていたときより、ずっとずっと良い。累はそう思った。

薫のユニットを見ているといやでもあいつの顔が目に入った。
朔間零。
話したのは復学後の初日のみだが、やはり嫌悪感を感じる。なぜ、とかどうして、とか理由はないが、生理的に受け付けない。
睨みつけるように彼を見ていると、ぱちりと目があった。冷たい目線を投げる累に対して零は、それはとても楽しそうに笑みを返した。
それに言いようのない苛立ちを感じた累は彼から視線を外した。



「貴様ら……!何をしているっ」

制服姿で登壇した男の声によってUNDEDのパフォーマンスは一度止まる。男は生徒会のようで不測の事態に多少の焦りを見せていた。

本来今日のS1はUNDEDの出演はなかったのだが、彼らは半ば乱入のような形でライブを始めていた。事前に薫に出演することを聞いていた累は、出演者の項目を見て彼の所属するユニットがないことに疑問を持っていたが、最初から彼らが乱入するつもりであったのだから当然載っているわけがなかったのだ。
せっかくの薫の晴れ舞台だからと運んだ足が、無駄にならくてよかったと思っている。

話を聞いているところによると、制服の彼も今日の出演者であるらしい。
ユニット名は紅月。紅月について累は一応知っていた。というより知らざるを得なかった。
今の夢ノ咲の現状、それを知るのと同時に上がってくるユニット名のうちの一つ。

累は復学後、一度もライブをしていなかった。その理由の一つが今の夢ノ咲の現状である。正当に評価されない実力。生徒会が絶対。その今の風潮があまりにも不愉快で、ドリフェスなんてものには参加したくなかったのだ。




B1形式で行われたUNDEDと紅月の勝負。
両ユニットの演奏が終わった。勝敗は客席のペンライトの数で決まる。が、今の夢ノ咲の現状ではUNDEDに勝ち目がないのは明らか。それを知った上でS1の勝負を見に来ていた累は、その出来レースに不快感を感じながらも、目的であったライブの鑑賞を終えて、会場を出てしまおうとしていた。

その時だった。
ステージに上がっている者より一際高い声が聞こえたと思うと、ピンクと水色の双子の少年がステージの中央に立っていた。
様子がおかしいと累は立ち去るのをやめてステージを見る。

何かが始まろうとしている。

双子は今までのパフォーマンスを前座といった。あの生徒会勢力である紅月をだ。

「俺たち夢ノ咲学院の大本命、新進気鋭のアイドル集団、『Trickstar』が間も無くパフォーマンスを開始しま〜す☆」
「拍手でお出迎えくださいっ♪」

双子のその声で新たなユニットがステージに登壇する。
それは累の知らないユニットだった。
どこまでも真っ直ぐでキラキラとした、まさに新しい光。まだ歌もダンスも完璧とは言えないけれど、その輝きに惹きつけられる。

…結果はTrickstarの優勝だった。
待ちに待った奇跡の瞬間に生徒たちは歓喜の声を上げる。
それに対してステージに登壇していた紅月のリーダーは苦々しげな表情を浮かべていた。

Trickstarが優勝したこと。
夢ノ咲学院に革命が起こったこと。
それはとても喜ばしいことだし、累としても良いことである。
それなのに。

どうしてこんなに悔しいのだろう。
出来ることなら、自分の手で、革命を…、
そう、思ってしまった。



20181002
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