結論から言うとファッションショーは大成功、ラギーの魔法石奪還も成功し、ようやく学園に安寧が訪れた。

フェアリーガラに関わったものたちが植物園前で互いの功績を称え合う。
レオナはその中でとある人物を探していた。彼とはある約束を交わしており、その約束を果たしてもらおうと思っているからだ。早くこの衣装を脱ぎ捨てて忌々しいフェアリーガラから解放されたいという気持ちが無いこともなかったが、そんなことより約束の方が強かった。

「もしかしてミーシャくんを探してるんです?」

ラギーがニヤリと笑いながらレオナに声をかける。
そう、あれだけ計画に関わってきたのにもかかわらず、今この場にはミーシャだけがいなかった。練習中もあれだけ独占欲を出していたのだから、レオナが人を探しているのを見て、その探し人がミーシャだということは誰にとっても明白だった。

「ああ、キングスカラーが探している主人だが……待っているようだから早く行ったほうがいい。とびきりのご褒美を用意しているようだぞ」

そんなレオナにニヤつく口元を手で隠しながら告げたのはクルーウェルだった。
ラギーもクルーウェルも人の恋路(ではなく主人と飼い猫の関係)を面白がっていることを隠しもしないことに苛立ちを感じたレオナだが、それよりもだ、目の前に用意されたご褒美という名の獲物を手に入れなくてはと舌舐めずりをするのだった。



コンコンという部屋がノックされる音がする。意外と紳士的な態度な彼にはいつも驚いてしまう。

「はい、どうぞ」

部屋の中にいたミーシャは、返事をしてノックした人物を招き入れた。
すぐに扉が開き、入ってきたのはレオナだった。

「レオナ先輩お疲れ様です。ショーは大成功でしたね」

ミーシャはそう言ってレオナを出迎えた。
一方レオナはというと、すぐにミーシャに近づいて来るかと思いきや、入り口にとどまったままで閉じた扉に背を預けたまま上から下まで舐めるようにミーシャを見ていた。

「そんなに見ないでください、恥ずかしい」

そう言って視線を逸らしたミーシャの頭で、カチューシャについたレオナと揃いの飾りが揺れた。

それはフェアリーガラ数日前。レオナのやる気がほとんどなかった頃のことだ。
このレオナのやる気を出すためにはそれなりの対価が必要だとミーシャは考えた。その対価という名の餌。それがミーシャである。フェアリーガラが成功してくれないとミーシャだって困ってしまうのだ。授業が出来なくて留年どころか、灼熱の寮生活で干からびる未来しか待っていない。

「ご褒美なんだろ?たっぷり味合わせてくれなきゃ困るぜ?」

レオナはニヒルに笑いながらまじまじとミーシャを見る。

ミーシャが纏っている衣装はフェアリーガラに出た皆が来ていた妖精の衣装と同じものであった。ミーシャが最初に懸念していた通り、その髪色と衣装の組み合わせが合うかと言われると確かに不釣り合いなものではあるが、クルーウェルの技術とミーシャの美しさがそれをカバーしており、問題はないように見えた。
それよりもだ。レオナらが着ていた衣装はあまり露出度が少なく、ミーシャのそれもそうであると思われていたが……彼女の肩は大胆にさらされており、また、制服ではグレーのタイツでカバーされているはずの彼の足がスカートの下から見え隠れしていた。上にストールを羽織っているが、シースルー生地なためにレオナの目にはしっかりと彼の滑らかな肌が見えていた。

「誰にも見せてないんだな?」
「ええ、そういう約束でしょう?衣装を作ってくれたクルーウェル先生とメイクをしてくれたヴィル先輩には見られていますけれど」

ストールを纏った肩を抱いて身を小さくしながらミーシャは答える。
今回レオナとミーシャが交わした約束はフェアリーガラの衣装を纏った姿を他のものに見せないというか約束だった。それは彼の幼馴染みのオクタヴィネルの3人も該当する。レオナだけに見せるという条件は彼の独占欲を酷く満たすもので、ご褒美にはこれ以上ないものであった。

「ずいぶん恥ずかしがるじゃねえか。海の中じゃあ全部見せてる癖になあ」
「だってアズールに肌を見せるなって言われてから陸ではずっと隠していたんですもの、なんとなく恥ずかしいんです」

ミーシャはクラゲの魚人であり、海の中では陸の人間と違い布を纏うことはない。レオナもアズールがオーバーフロットしたあの事件の折にミーシャの魚人姿を見ており、今更照れることではないはずである。
しかし陸に来てから素肌は晒すものではないというアズールの過保護ないい付けを守り、それに慣れてしまってからは、素肌を見せることはいつも見られていないところを見られていると思えて恥ずかしく感じるようになったのだ。素肌を見せることは生まれた時からしていたことなはずなのに、慣れとは怖いものである。

「肌はあんまり見えないようにってお願いしたのだけれど、せっかくのご褒美なんだからって言われて聞いてもらえなかったわ」

眉を下げて困った顔をしながらミーシャはそうは言うが、少し手を回す、例えばアズールに助けを求めるだとか、勝手に衣装に手を加えるだとか、そう言ったことをしても良かったはずだ。ミーシャは別にいい子ではない。そう言った悪どいことを十分やりかねない。
それをしなかった、と言うことはミーシャなりにレオナの頑張りを労わろうとしているのだろう。そうでなければ自分の弱みになるであろう恥ずかしがっている姿なんてミーシャが見せるわけがない。

ここまでずっとじぃっとミーシャのことを見ているだけだったレオナだったが、ついに扉前からミーシャの方へ距離を縮めてきた。
ミーシャは危機感を感じで笑顔が強張り、身を固くする。
レオナの大きな掌がミーシャへと伸ばされた。もしも少しでも変な動きをしたら雷を落とすことも厭わない。
しかし身構えていたミーシャの思惑とは異なり、レオナの手はふわりとミーシャの頭を撫ぜた。

「今度からはちゃんと断れ。そんな格好して襲われたらどうするんだ?」
「レオナ先輩ならそんなことしないでしょう?」

ミーシャはそう言ってほっとしたように肩を撫で下ろしていた。
いつもなら同じ台詞を言っていたとしても『手を出したらこの関係は終わり』と言わんばかりににこりと笑って挑発的であったはずだ。
つまり、恥ずかしがっている真偽はどちらにせよ、少なからず動揺はしているわけだ。

「疲れたから寝る」

レオナはそういうと、ミーシャの手を引いて部屋にあるベッドに彼を座らせ、自身は彼の膝を枕にしてベッドに寝転がった。この体制はいつもと同じ体制で、

「お疲れ様でしたレオナ先輩」

ミーシャはすっかりいつもの調子に戻って笑顔を浮かべていた。

ミーシャは気づいていない。どろりどろりと甘やかされた己が無条件にレオナを信用しつつあることを。きっときっかけがあればミーシャはあっという間にレオナの手の中だろう。
レオナはそれを虎視眈々と狙っている。


20200707


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