所は変わってオンボロ寮の談話室。フェアリーガラに参入するメンバーが総揃いしていた。
騒動に巻き込まれたラギーとジャミルがそれぞれレオナとカリムに文句を言う中、ミーシャはユウの隣を陣取って座り、とてもご機嫌であった。ミーシャの役割はレオナの監視であるし、世話役のラギーがいるからやることなどないだろうと、ほとんど無視をしてユウとお喋りをしていた。ユウの方は言い合いをしている方が気になるようで気もそぞろであるが、ミーシャを無下にすることもできずに困った様子だった。

「というかお前も参加者だろ、何草食動物と喋ってんだよ」

痺れを切らしたレオナがラギーの文句から逃げるようにミーシャに噛み付いた。

「残念ながら私は参加しません。エキゾチックな雰囲気とは程遠いでしょう?」

そう言ってミーシャは首を傾げた。
今回のメンバー選抜の理由はエキゾチックな雰囲気が似合う者だ。たしかにレオナやカリムは打ってつけであろう。それに対してミーシャの明るい蛍光の黄緑の髪色は、とてもじゃないがエキゾチックな雰囲気に似合わない。一人浮いてしまうのがオチだ。

これにはレオナも何も言えない。チッと舌打ちをして苛立ちをぶつけるしかなかった。

「えっと、皆さん落ち着いたところで、いい加減計画を立てません?やらなきゃ留年です。腹をくくりましょう」

レオナが話しかけたことでようやくミーシャから解放されたユウが全体をまとめるように声をかける。確かにこれ以上は時間の無駄だ。それは皆気づいていたようで、ようやく話が動き出した。

レオナの提案で皆で妖精たちの注意を引き、その間に"手癖のいい"ラギーが偽物のティアラと魔法石がはめ込まれたティアラを交換することになった。

その注目を引く方法だが……フェアリーガラではファッションショーが行われる。それにレオナ、カリム、ジャミルの三人で出て会場中の注目を集めることになった。

それはとても面白い。
ミーシャは話を聞きながら一人心の中でほくそ笑んだ。あのレオナがファッションショーに出る。そんなのなんて愉快であろうか。

どうやらジャミルがファッションショーに向けて強力な助っ人を呼んだらしい。
そのときちょうどと言わんばかりに談話室の扉が開いてポムフィオーレ寮長のヴィルと教師のクルーウェルが入ってきた。トップモデルのヴィルにファッションの鬼のクルーウェル。たしかにファッションショーの指導としてはこれ以上ぴったりな人選はないだろう。

「フルオレセン、君も参加するのか?」

部屋に入ってきたクルーウェルはミーシャに声をかける。どうやらミーシャがいることは聞かされていなかったようだった。ミーシャはファッションショーに参加するわけでも、ましてやフェアリーガラに参加するわけでもないため、クロウリーもわざわざ伝えはしなかったのだろう。

「残念ながら私は参加しません。ただのレオナ先輩の監視役です。学園の一大事ですからしっかりしてもらわないと」
「フルオレセンの飼い犬がキングスカラーというのは聞いていたが、まさか本当とはな。さぞかし躾甲斐のあるペットだろう」
「まあ、そんなこと言ったらレオナ先輩に失礼です、先生。レオナ先輩と私は一般的な友人なのでそんな噂困ってしまいます」

困ったように眉を下げるミーシャに、クルーウェルはちらりとレオナを横見した。すると明らかに敵対心を持ったレオナの鋭い視線とぶつかる。

「フルオレセンはそう言うが、あのキングスカラーを見ると俺には飼い主を取られて嫉妬している猫にしか見えんな」

クルーウェルは静かに笑うとミーシャの頭をぽんっと撫でて離れていった。

クルーウェルと入れ替わるようにしてレオナはすぐにミーシャのそばにやってきた。ミーシャの腕を乱雑に掴むと引っ張り上げて己の腕の中に囲う。

「どんだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだお前は」
「今のは私は悪くありませんよね?」
「腹が立った」
「もう、拗ねないでください」

ミーシャはレオナの背に手を回してあやすように優しく叩いた。

まるで恋人同士のように見えるが、決してこの二人の間に恋愛感情はない。
ミーシャにとっては、あの横暴で身勝手なレオナ・キングスカラーを手名付けているという己の強さを見せつけることができる。
レオナにとっては、学園の華であるミーシャ・フルオレセンを手中に収めているという他者に対する優越感を得ることができる。
互いの利益のために側にいることを拒まないのだ。

とは言いつつ、あれだけ独占欲をちらつかせているレオナは、利害関係以上の気持ちを抱えていてもおかしくないかもしれない。オクタヴィネルの三人がいる以上無闇矢鱈と手を出すことはしないが、ミーシャが望めば彼はどんなことでも受け入れるだろう。
ミーシャもミーシャで最近レオナが可愛く思えて仕方がない。しかしそれは飼い犬に向ける感情に近しい。レオナが何をしてこようが、飼い犬が戯れてきただとか、飼い犬に手を噛まれたぐらいにしか思わないだろう。

「はあ、いちゃつくのは他所でやってくれっていつも言ってるッスよね〜?」
「私はあんたのそんな姿を見に来たわけじゃないのよ?」
「そうだな、今は時間が惜しい。もたもたしていると生徒から死人が出るぞ。まずは全員衣装合わせからだ」

ミーシャたちが周りに呆れられながらも、ようやく計画が決まり順調に思えた潜入作戦。
しかしここからが地獄の始まりだとはまだ誰も知る由はなかった。

20200616


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