どういうわけか朝からオクタヴィネル寮内が灼熱だ。もともと水中で暮らす生徒が多い寮内は死屍累々である。ミーシャも表情こそいつもどおり微笑んでいるが、生気がない。

そんなミーシャの元に一通の手紙が舞い降りた。黒いカラスの羽根が一緒についてきていて、それは学園長であるクロウリーからの手紙だということに気づかないわけがなかった。
正直ミーシャはちょっと面倒くさいと思った。なんせあの学園長からだ。下心満載でオンボロ寮の監督生の手伝いをしているミーシャだからわかる。絶対に面倒なお願い事をされると。それ以外にあのクロウリーから手紙を遣される理由などわからなかった。
それでも一応礼儀として中身は見ておこうと封を開ける。

中には今回の異常気象の原因である魔法石が盗まれたこと、それを取り戻すためにフェアリーガラに潜入することになったこと、それに関して少し手伝って欲しいと言うことが書いてあった。それにミーシャはとても興味が惹かれた。主にフェアリーガラに潜入する中に意外な人物が組み込まれていたからだ。

早速ミーシャはクロウリーのお願い事を叶えるために学園長室へと赴いた。どうやらこちらはオクタヴィネル寮とは対極に極寒で、少し生き返る気持ちがした。

「あ、ミーシャ先輩」

ミーシャが学園長室へ向かっていると後ろから声がかかる。それはオンボロ寮監督生のユウのもので、ミーシャの機嫌はうなぎ上りに上がっていった。

「まあ、ユウちゃん。ユウちゃんも学園長に呼ばれたの?」
「もってことは、ミーシャ先輩もなんですね。オンボロ寮は砂漠みたいな猛暑でしたよ。オクタヴィネル寮は大丈夫でした?」
「こっちも同じよ。みんな干からびそうになってたわ」
「皆さん水の中で暮らしてたんですもんね……ううっ、逆にここはすっごい寒いですね……風邪ひいちゃいそうです」

ユウは普通の人間だ。この寒さは耐えがたいものだろう。ミーシャは手を繋ぐ、あるいは許されるのならば抱きついて温めることも一瞬頭をよぎったが、自分の体温はどちらかというと低いことを思い出して留まった。人魚である自分が少しだけ恨めしい。

そうこうしているうちに学園長室にたどり着いた。
中ではガヤガヤと数人の話し声がする。失礼しますと一声かけながらミーシャたちは部屋に入った。

部屋にいたのはクロウリーと、今回フェアリーガラへの潜入が決まったメンバーであろう、カリムとレオナがいた。

「学園長、用事って何でしょうか?」
「ああ、まだ言っていませんでしたね」

どうやらユウに渡した手紙には説明がなかったようだ。ユウなら雑用でも何でも頼めば断ることはないと思っているのだろう。ミーシャはクロウリーの監督生に対する雑な扱いに少し苛ついたが、猫を被っている手前下手に噛みつくことはしなかった。そのうちちょっと痛い静電気がクロウリーを襲ってもミーシャの預かり知らないところである。

クロウリーは監督生にことのあらましを簡単に説明した。学園の一大事だ、監督生も特に悩むことなく手伝いを了承する。

「同じようにフルオレセンくんにも主にキングスカラーくんの監視役になってもらおうと思いまして。お二人はとても仲が良いようですからね」

確かにミーシャとレオナは付き合っているのではと噂が流れるくらいには定期的に会っているし、その時の密着度は高い。その実、ただふわふわとした耳を触りたいだけなミーシャとその撫で方を気に入ったレオナ、お互いの目的のためだけに会っているだけである。

「まあ、もちろん。学園の一大事ですものね」

ミーシャはにこりと微笑む。そんな彼をみてレオナは舌打ちをする。

「寮が暑くてとっても辛かったわ。レオナ先輩ならなんとかしてくれますよね?」

困ったように眉を下げてレオナを見上げるミーシャ。これがミーシャの男をオトす、か弱いくて守ってあげたくなる、そんな擁護欲を掻き立てるお願いの仕方だ。
残念ながらレオナにはそれは効かない。ミーシャの裏の顔を知っている者ならそれが演技でしかないことを知っているからだ。

「フェリーガラに出るなら着飾ったりするのでしょう?きっとレオナ先輩ならとても格好いいはずだわ。ちょっとだけ楽しみなの」
「おい、お前俺に八つ当たりしてるな?」

レオナは片眉を釣り上げながら苛立ちをあらわにする。それにミーシャはにこりと笑った。

ミーシャが今回クロウリーの手伝いを了承したのは、レオナの着飾った姿なんてあまり見れないから面白そうだから見たい、そんな下心からだ。
それを遠回しにレオナが苛つくように伝え、少しからかった。それはレオナの言う通り、暑さに対する苛立ちを八つ当たりがしたかっただけである。
ミーシャの性格をよく知っているからこそ理解できるので、レオナの以外は八つ当たりと聞いてもピンと来ていないようだった


20200614


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