あんな長身目に入らないわけがない。どういうわけか彼は私のクラスにいた。いや、実際理由なんてテニス部関連で白石くんに会いに来た他ないのだが。ある程度近い距離にある白石くんの席まで彼は来てその席の主と話をしていた。ざわざわした教室により話し声は聞こえないけれど最初に言ったとおりテニス部関連の話をしているのだろう。

私は自分の席で彼を視界に入れないように机に伏せた。
話しかけに行きたいという気持ちは押し殺す。チキンだなあ。

好き、すき、スキ。

ほとんど話したこともない彼が好き。私は表情に出やすいらしいから気をつけないと、いつこの気持ちが露見してしまうかわからない。

いっそばれた方がいいかな。いや、ばれたら知り合いという関係でさえ崩れてしまう気がする。知り合いと言ったのはまだ、友達と言えるほど仲良くないと感じているからだ。ただの知り合いに好意を持たれているというのはテニス部でただでさえモテる彼にとっては迷惑極まりないだろう。やっぱりばれたくない。

彼のトクベツじゃなくていいから友達になりたい。せめて話しくらいさせてくれてもいいよね。

今日はまだ話しかける勇気はないけど眺めるくらいは許されないかなあ。でももう帰ってしまったかなあと思いながら顔をあげた。

ばちん。

視線がかち合う。驚いて、数秒止まって、にこり。笑うだけで精一杯だったが、彼も笑い返してくれた。
まだ彼の中に私は残っているのだと思うとそれだけで嬉しかった。

話しかけてくれないかな、なんて少し思ったけど彼はまた白石くんとの話に戻る。ほんとに、たまたま、偶然目があっただけ。

奇跡に等しい、その瞬間が私は嬉しくてたまらなかった。

今日も今日とて変わらない一日を過ごすのだ。

20140902

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