「あ、」

その声は私の目の前の人物から聞こえた。

「こん前目があった子ね?」

目の前の千歳千里は私を見て言った。

とにかく私の胸は馬鹿みたいにドクンドクンと跳ねていて、それをなんとか隠しながら彼の問いに答えようとする。

「あはは、そうです」
「なして敬語とね、同い年やけん気にせんくてよかよ?」
「うん、そうだね、あはは、」

以外と話せる。それもそうで、彼も私と同じ人間でなんら大差ないはずなのだから。私が緊張する意味はない。
しかし、ここで話が終わってしまった。非常に気まずい。じゃあねと去る方法もあるが、こういう時に私の口は良くまわる。

「千歳くんやったよね?」
「知っとーと?」
「転校生だしみんな知ってるよ。千歳くん部活は?時間的に始まってると思うんやけど」

時刻は午後4時50分。ちょうど始まるくらいかと思う。私は委員会の仕事により部活に遅れることは部長に報告済みである。しかし、おそらく、たぶん、彼は、

「…天気がよかけん散歩したくなったばい」

これからサボるということだ。

「サボってばかりやと白石くんに怒られるよー」
「覚えとくばい」

きっとすぐ忘れる。決して気にすることはない。それが必然だから。

しかし目があったことを覚えていてくれたからもしかしたら、なんて。

そのあと名前も名乗らずにほどほどにねと声をかけて私は去った。
他のクラスである彼と話すことなんてきっともうない。教えたところで呼ばれるはずもないのだ。

今日も今日とて変わらぬ一日を過ごすのだ。

20140810

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