「隣、名字さんか。よろしくな」

それは奇跡ではないかと思った。

ズガガガッと机を引きずる音が教室内にこだまして騒音を奏でる。今日は席替えだった。自分の席とお別れして新しい席へと移る。窓際の自分の席を気に入っていたから残念だ。

席替え。それは女子の間で一種の戦争である。クラスで人気の白石蔵ノ介と忍足謙也の隣の席の争奪戦。と言ってもくじ引きなので一生懸命祈るしかなのだが。

私は隣になりたいだなんて思ってはいないので、何も思わずくじをひいて適当な席に移動する。今回は廊下側の一番後ろ。良席である。
速攻移動して教室の動向を見守っていると女子の視線は彼らに釘付けであった。私の視線も彼らに釘付けである。彼らは色づいてやっぱりキレイだった。

騒音が鳴り止んだ。白石の席は一番前の窓際の列。忍足の席はクラスの中央。隣になれた女子たちはそれそれは喜んでいた。羨ましいとは、思わない。と、言えてしまったらいいのだろうけど彼らに近づきたいと思ってしまっているのは真実で。恋愛感情抜きであのキレイな色に惹かれる。そしてあわよくば千歳くんと、だなんて。
都合よく行くわけがないことは百も承知なのでぽわぽわ浮かんだ妄想を消した。

「すまん、俺視力が悪いから前の席誰か代わって」

隣の席の男子生徒が多少静かになった教室で声を上げる。私には関係話か、と私は机に伏せてその件が片付くのを待った。
しばらくすると交換相手が見つかったのか再びズガガッと机が移動する音が聞こえる。ほとんどの机が配置についてしまっていて移動するのに手間取っているようで少し時間がかかった。それも静かになると移動が終わったことがわかる。

さあて、私の隣は誰になったのか。
そして冒頭に戻るのである。

「よろしくな」

隣にいるのは誰だ。
白石蔵ノ介だ。

私に話しかけてるのは誰だ。
白石蔵ノ介だ。

「あ、うん、よろしくね」

にっこり笑って白石から目をそらした。間近で見た彼はキレイだった。どきんどきん。胸が高鳴る。
ここで仲良くしようと努力すればいいのに。せっかくのチャンスなのに。私はチキンと言うのをお忘れなく。

遠くの元いた彼の席を見ると、隣であるはずだった女子生徒が悔しそうな顔でこちらを見ていた。しかし席の交換は彼が望んだもの。何も言えなさそうに唇を噛んでいる。
笑いが一番のこの学校でいじめなんて起こるはずはないのだが(実際見たことない)少し怖い。

彼の左隣は彼に少なくとも好意を寄せている女子生徒のようで、白石くんと隣で嬉しいなと声をかけている。きっと白石は優しいから答えてあげるんだ。だから私と話すことはない。自分から話しかけることすらできないのだから。こんなの奇跡なんかじゃない。ああ、私は羨ましいなと思うことしかできなくて。

今日も今日とて変わらない一日を過ごすのだ。

20150201

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