「えっなにこれ」
壁に貼られた紙に書かれた文字に私は驚愕した。
『この部屋から出る条件』という言葉と、そして、『部屋にいる相手とキスをする』という言葉が書かれた紙。
それ以外、この部屋の中にあるものといったら何もなくて、紙の隣にある唯一の扉は、ドアノブをひねるとガチャガチャと音が鳴るだけで、開くことはなかった。
と、いうことはだ。たぶん、信じたくないけど、おそらく、紙に書かれた条件をクリアしなければこの部屋から出る言葉できないのだろう。その相手、というのが、
「どうしよう、ひーくん」
幼馴染である巴日和であった。
どうせ悪い日和!とか言って文句を言うのだろう。なんとかしろとのたまうのだろう。安易に想像できる。
しかしいつまでたってもひーくんの声は聞こえなかった。おかしいと思って後ろを振り返る。
すると、パチリとひーくんと目があった。
「ひー、くん?」
驚くほど真剣な目をしていて、恐る恐る彼の名前を呼ぶ。
するりと彼の手が私の頬に触れた。
そして、息をする間も無く、ひーくんと私の距離はゼロになった。
驚いて距離を取ろうとすると、頬に触れていた手が頭の後ろに回ってそれを拒む。時に長く、時に短く、くっついては離れを繰り返す。息がうまくできなくて、苦しくなった頃にようやく、ひーくんの手から解放された。
浅い息を繰り返す私を見るひーくんはとても愛おしそうな目で私を見ていた。
「いい加減僕の気持ちに気付いてほしいね」
私の後ろで、扉の鍵が外れる音がした。
20190419
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