「それじゃあ行ってくるね」
あの時と同じように英智くんは私にそう言ってステージへと上がっていった。
今日はDDD、そして今は決勝戦前。
革命が、始まる。
英智くんの体力がもう少しで尽きることをわかっていた。それが今回の策略で、私もそれを許容した。彼がどんなに辛そうでも、伸びる手を必死に止めて、私は舞台袖で彼らを見ていた。
息も絶え絶えなくせに完璧なパフォーマンスをする英智くんを見たら泣くもんかと思っていたのに涙が溢れてきた。英智くんが演技をするたび溢れる涙。
それでも助けに行かなかったのは、新しい光を信じたから。
きっと、みんなが笑える未来の中で、私もえーちゃんも笑えるような未来を、信じたから。
悲しかった気持ちを全部吐き出すように次から次へと溢れる涙。
本当はずっと苦しかった。昔みたいに仲良くしたかった。友人でいたかった。
本当はこんなことしたくなかった。えーちゃんの信じた道を信じたかった。
「英智くんごめんね、」
泣きじゃくりながらDDDを終えて舞台袖に帰ってきた英智くんに声をかける。
もしできることなら、今、みんなが笑っている中にえーちゃんもいて欲しかった。決してえーちゃんがやったとことは間違いじゃなかったかもしれない。それも一つのやり方だった。でも私にはそれが耐えきれなかったんだ。
「碧衣ちゃん、今までありがとう」
英智くんの声は、まるでさよならと言わんばかりの声だった。
確かに私は英智くんを裏切った。
でも、だけど。
私の横を通り過ぎようとする英智くんの腕を掴んだ。裏切った私が何を、と英智くんは思うかもしれない。
それでも、さよならしたくない。
掴んだはいいけれど、何を言ったらいいのかわからなかった。涙で歪んだ目では英智くんがどんな表情を浮かべているのかもわからない。
そんな私の頬に当たる手のひら。
それは、英智くんの手のひらだった。
「もうえーちゃんとは呼んでくれないのかい?」
「英智くんが望んでいたものを全部壊したのに?そんな資格、私にはないよ」
最初は、彼に裏切られて悲しくて、壁を作るように英智くんと呼んだ。
初めて英智くんと呼んだ時の顔、覚えている。平然な顔でなんだい?と返事していたけれど、瞳が揺れていた。
ちょっとだけ、いい気味と思った。
心は痛かった。
それからすこし経って、あの、革命の始まりのS1で、Trickstarを見てから。私は彼らに協力してきた。
えーちゃんを裏切った。
その事実が私に彼をえーちゃんと呼ばせることをできなくした。私なんかが、彼の側にいてはいけないと。
ほんとはずっと、えーちゃんと呼びたかったのに。
「碧衣ちゃん」
彼に呼ばれて顔を上げる。溢れた涙を英智くんが拭った。
「君をこんな風にしてしまったのは僕のせい。だから、
君が僕を許すなら、僕は君を許そう」
ねえ、答えなんて決まってるんだよ。
「うん、許す
大丈夫、また新しく始めよう、えーちゃん」
私は頬に当たるえーちゃんの手に自分の手を重ねた。
「ありがとう、」
えーちゃんは嬉しそうに笑っていた。
20190516
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