次のライブの資料を見ているとくうとお腹が鳴った。こう見えてしっかりプロデューサーの仕事もしているのだ。と、いうかひーくんとなーくんが把握していないことが多いから代わりに私が把握しているだけなのだけれど。
小腹が空いたなあと思って資料から顔を上げると、同じようにライブ資料を見ていたえーちゃんと目があった。
「えーちゃんお菓子食べたい」
「どうぞ、紅茶入れようか?」
彼は私の要求に嫌な顔せず、自分では絶対に手を出せないような美味しーいお菓子を分けてくれる。最近はこれが毎日のように続いていて、太った気がする。えーちゃんのお菓子が美味しいせいなのでえーちゃんが悪いと責任転嫁をしながら差し出されたお菓子を1つつまんだ。
「なんかさあ、お菓子さえやっとけばいいと思ってない?」
最近手馴れてきたよなあとふとこぼした言葉だった。
別に特に何を求めたわけじゃない。
けれど返ってきた回答は、
「不満かい?じゃあ君は一体何が欲しいんだい?」
と、いうまるで対価を求めるような言葉が返ってきた。
確かに私とえーちゃんの関係は雇い主と雇われ主であるといえばそうであると言える。もともとこの学院に入るのに制服などをもらい受けたことが始まりだが、今は別にそんな対価がなくたってみんなと過ごすことが楽しくなっていた。
だから、別にそんな言葉はいらないのに。
「別にそういうわけじゃない、よ」
どうしてだろう、たまにえーちゃんがわからない。
生徒会室で資料とにらめっこをしていると、やけに視線を感じた。その視線に顔を上げると、にこにこと笑う英智くんと目があった。
「どうしたの?」
「いや、そろそろ休憩したらどうかと思って。美味しいお菓子を用意したんだ」
彼はあの頃と同じように私にお菓子を差し出す。美味しそうなそれは、集中が切れた今、急激な空腹を誘った。
しかし私はそれを振り切るように、
「大丈夫、ありがとう英智くん」
そう言って首を振った。
「何が欲しいものはあるかい?」
今でも英智くんが何を考えているかわからない。
あの頃と何も変わらない。
一つ変わったとすれば、私はなんとなく流されるままここにいるのではなく、自分の意思でここにいること。
何も考えず彼の手を取ってしまえたらどんなに楽だろうと思った。
言われるがままにまるで駒のように動いていればこんなに苦しくないのかもしれない。
そう思うことも多いけれど、でも私は。
今度は私として彼のそばに居たい。
私は、
「何もいらないよ」
友人として隣にいちゃだめなのだろうかと思うんだ。
20190516
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