「それじゃあ、いってくるね」
「いってらっしゃい」

私は4人の背中を舞台袖で見送った。
ドリフェス制度が設立され、4人のユニット、fineは勝利を重ねて、学院のトップとなった。
4人が舞台に上がると、会場は歓声に包まれる。
今日の相手は、最後の五奇人、日々樹渉。
これが正しかったのか、わからない。
けれど、私の正義はえーちゃんだったから。
ここまでついてきた。
これで、全て終わるのだ。
私たちの関係も。

昨日英智くんに言われた。

『これで君との契約も終わりだ。fineは明日解散する。君の仕事もそれで終わりだ。ああ、その制服は自由に使ってもらって構わない。もしほかに報酬が欲しければ遠慮なく言ってほしい。碧衣ちゃんにはたくさん働いてもらったからね』

何を言っているのか理解できなかった。
いや、違う。
理解したくなかった。
薄々気づいていたのだ。えーちゃんが遠い先を見据えていること。その先に私たちの姿がないこと。

「嘘だよね?」

たぶん、私の声は震えていたと思う。

「何が嘘、なんだい?」

冷たく返ってきた言葉に、私は何も言えなかった。

私たちはとてもうまくやったと思う。
でもそれは誰かを傷つけて、誰かを不幸にしていた。
直接自分が何かしたわけではないけれど、あちこちで耳にする話は私が部外者ではいられない話で、気付いた時には後戻りできないところにいた。
それでも、えーちゃんの信じた道を私も信じていたから、漠然とした恐怖を抱えながらも、彼についてきた。友人として、彼とともに、彼らとともにいたいと思ったから。

でも私たちは駒だった。
えーちゃんにとって便利な駒。
優秀とは言えないけれど、えーちゃんの目的を達成するために貢献はできたと思う。
だからよかったのかな、なんて。

でもやっぱり、友達として、いたかったな。

その言葉は口に出すことはできずに、私はただ、彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
どうして涙が出てくるんだろう。
きっと最後のfineとしてのライブだ。目に焼き付けなくてはいけない。そう思っているのに歪んで前が見えない。

どうしたらよかったんだろう。
今となってはもうわからない。



歓声が鳴り止まない中、みんなが舞台から戻ってきた。

一番初めに戻ってきたのはえーちゃん。

「お疲れ様、とても助かったよ」

たったそれだけを私に告げて、横を通り過ぎていく。
私の伸ばしかけた手は、何も掴むことができずにそのままそっと降ろされた。

二番目はつーちゃん。
彼はとても辛そうな顔をしていた。しかしまるで痛みを受け入れるように、眉を寄せたままへにゃりと笑って、

「終わっちゃいましたね」

と、私に告げた。

三番目はひーくん、そしてなーくんも一緒に。

「僕たちはこれで夢ノ咲をやめるよ。うちも英智くんの力がなくてもなんとかやっていけるようになったしね。碧衣、君はどうする?」
「ねえ、楽しかったのは私だけなのかな」
「いいや、悪くなかったと思っているよ。でも、碧衣も知っているよね、僕が誰かの下につくような人間ではないこと」

彼は私の頬を伝う涙をぬぐいながらいつもの調子で話を続ける。

「僕たちは新しい場所でアイドルとしてまた活動をしていく。碧衣には出来れば一緒に来て欲しいけれど、無理強いはしない。時間はある、少し休んで考えればいいね」

珍しく彼は強要しなかった。
いっそ手を引いてくれれば楽だったのに。
それが私のためにならないことを彼はよくわかっているらしい。

ひーくんは私のことを抱き寄せて頭を撫でる。後ろからはなーくんがそっと寄り添ってくれて私は二人に挟まれるようにして彼らの胸の中で泣いた。声を出して泣く私のことを、二人は何も言わずに抱きしめていてくれた。

さようなら、私の大好きなfine。


20190419

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