昼休みに入るとすぐに桃李くんが2Bの教室へとんできた。朝のお昼の誘いを再度してくれたが、あいにく職員室へと用事があったので断ってしまった。その時の桃李くんは心底しょんぼりした顔をしていたが、また今度誘ってと言うと絶対だからね!と言って伏見くんを連れ立って嬉しそうに去っていた。

それと入れ違いに私を呼ぶ声が聞こえた。
それは私の親友であるあんずの声で、教室の入り口には彼女と、そしてこの学院の物語で鍵となる三人がそこにいた。

「どうしたの?あんず」

私が問いかけると彼女は三人が校舎の案内をしてくれることになったと言った。それからそばにいた三人のクラスメイトを紹介してくれる。明星スバルくん、氷鷹北斗くん、遊木真くん、その三人だ。

「明星くん、氷鷹くん、遊木くん、はじめまして。月城せいらと申します。よろしくお願い致します」

紹介してもらったので私も自己紹介をする。にこりと笑って微笑むと明星くんと遊木くんはわあっと小さく歓声を上げた。

「すっごいお嬢様だ…!」
「おい、お前ら失礼だぞ」

二人の態度に北斗くんがたしなめる。

「だってなんかぞわぞわっとしちゃう!慣れないからかな!」
「伏見もそんな感じだろう」
「そ〜だけどさあ!もっと気軽にはなそ〜よ!これから同じ学校で通うんだからさ!」

明星くんはキラキラとした笑顔で私を見る。
この笑顔が未来を切り開くと思うとワクワクして仕方がない。

「ふふ、明星くんたちがいいならそうするわ」
「うんうん、その方がいい!」
「自己紹介が終わったならそろそろ行くぞ。月城は一緒に来るのか?」
「ごめんなさい、職員室に呼ばれているから今回は辞退させてもらうわね。あんずは気にしないで行ってきて」

頷くあんずは少しだけ緊張して不安そうな顔をしていたけれどあの三人とならきっと楽しい学生生活を送れることを知っている。だからきっと大丈夫だ。

「あんずをよろしくね」
「もっちろ〜ん!」

景気のいい明星くんの声を聞きながら私は四人を見送った。

それから教室に残っていた嵐ちゃんと昼食をとり、職員室に行くと、先生たちから挨拶をされた。私が通うにあたり月城家から夢ノ咲へ資金援助しているために、その御礼とこれからよろしくという旨を話されただけだった。

こんなにすぐに終わるならあんずたちに待っていて貰えばよかった、と思いながら廊下を歩いていると、屋外ステージが騒がしいことに気づく。
ここで漸く私は思い出した。すっかり忘れていたけど、あんずが校舎案内をしてもらった日に竜王戦が行われていた。それにあんずたちは巻き込まれるのだ。一応生徒会所属の衣更くんが助けてくれるはずだけれど、心配だ。私は教室に向かっていた足を屋外ステージへ向けた。
たどり着いたそこでは既に生徒会がライブを止めていて、見ていた生徒たちが我先にとその場を後にするところだった。

さすがにあんずたちは探せないが、生徒会の一人を見つける。

「なんの騒ぎですか?」

声をかけると、

「お前は………英智の言っていた転校生か」

そう言って蓮巳敬人はメガネのブリッジを押し上げながら私を見た。
桃李くんに私のことが知られているということは彼にも私のことを知っていると思っていたが、案の定だった。

「存じていただけていて光栄です。お名前をお伺いしても?」
「蓮巳敬人だ。生徒会に所属している。お前の親戚の英智は生徒会の会長でな。あいつからお前のことは事前に聞いていた」
「改めまして月城せいらと申します。蓮巳先輩、よろしくお願いいたします。それでこの騒ぎはなんでしょうか?」

私が尋ねると蓮巳先輩は度し難いと口癖を呟いてから事の次第を話してくれた。

「この学院ではドリフェスというものが行われている。それは生徒会に事前に申し込みをして行わなければならないのだが…どうやら勝手にドリフェスを行った奴がいるようでな。その粛清をしていた」
「まあ、そうなんですね。ルールを守らないのはあまり関心いたしませんわ」
「ああ、だからこうして生徒会が直々に粛清を行っている」
「それはおつとめごくろうさまです。でも………せっかく生き生きとした表情をしてライブをしていたようですし、いささか残念かもしれませんね…」

まあ実際にライブは見ていなかったけれど、ゲームでは大神くんが暴れていたのを見ているからわかる。
私の生徒会の行いを否定するような発言に、蓮巳先輩は眉をひそめる。

「貴様、」
「ともあれルールは守るものですから。長話をしてしまいましたね。そろそろ失礼いたします」

私は蓮巳先輩に何か言われる前に話を切って笑顔で去った。
別に喧嘩を売る必要はないのだが、少しでも注意を周りから反らせるためだ。それに、私は生徒会のやり方は好きではない。少しくらい反論したっていいだろう。
周りを見るとほとんど人はいなくなっていた。途中離れたところにいた桃李くんと目があってこちらに手を振ってかけて来ようとしたのを伏見くんに止められているのが見えた。
あんずたちの姿もないしこれ以上お仕事の邪魔をするのも申し訳ないので桃李くんには手を振り返しておいてあとは教室に戻ることにした。

教室に戻る前に保健室に寄ってあんずの姿だけ確認してきた。竜王戦で大神くんに押し倒されて目を回してしまうはずだ。案の定、保健室のベッドにはあんずか寝ていた。私が来る少し前に目が覚めたらしく、佐賀美先生に診てもらっていた。

「あんず、大丈夫?」

そう言うとまだクラクラするけど大丈夫だよと笑顔が返ってきたので安心した。軽い脳震盪だそうで念のため病院に行くらしい。心配だったが、せいらちゃんは授業に出て?と言うあんずの言葉に、後ろ髪を引かれながら教室へ戻った。大丈夫とわかっていても心配なものは心配だ。

教室に帰ると、苛立っている大神くんが一番に目に入ってきた。見るからに危険オーラが出ていて周りも避けている。あんずのことに対して文句を言いたいのも山々だが、下手に刺激しない方が得策か、と私も声をかけずに脇を通り過ぎようとした。

「おい、」

のだが、なぜか声をかけられる。

「なんでしょうか?」
「さっき隣のクラスの転校生踏んづけちまってよお。あー………明星たちがいたから大丈夫だと思うが、お前友達なんだろ?」

モゴモゴと口を濁しながら話す大神くん。おそらくあんずのことを心配しているのだと思う。なかなか素直になれないようで、最終的には、

「全部わり〜のは生徒会の奴らだからな!!」

と、責任を全て押し付け始めた。それでも彼の気持ちは伝わったので、

「念のため病院に行くみたいだけど大丈夫そうでしたよ」

そう言ってあげると、

「フンッ、そうかよ」

とそっぽを向いてしまった。

かわいいなんて思って笑ってしまいそうになったけれど、そんなことしたら大神くんは怒るだろうから簡単に挨拶をして彼の元を離れた。
仲良くなったらもう少し素直になってくれるだろうか。

自分の席に戻ろうと思ったのだが、私に手を振る人がいた。それは嵐ちゃんで、彼が座る向かいには私が今一番話したかった人物、影片くんがいた。
気づかれないように一息置いて、それから嵐ちゃんの元まで行く。

「せいらちゃん大丈夫だった?晃牙ちゃんちょおっと不機嫌みたいなのよねェ」
「特に問題はないわ。おそらく原因は屋外ステージの件でしょう?」
「あら、せいらちゃんは見に行ってたの?まあ、見に行かなくても何があったかはわかるわあ。生徒会もお疲れ様よねえ」

そう言って嵐ちゃんは大神くんを一瞥だけして特に興味もなさそうに私に視線を戻した。

「そんなことよりせいらちゃんはみかちゃんとはまだお話ししてなかったわよね?」

話題を変えた嵐ちゃんは今まで黙っていた影片くんの名前を出した。
影片くんは私の視界に入らないよう小さくなって嵐ちゃんの後ろに隠れていたのだが、嵐ちゃんに名前を呼ばれてびくりと体を揺らしながら、その影から出て来た。

「ほら、みかちゃん挨拶なさい」
「か、影片みか…やけど俺、あんたとは仲良くする気ぃないで…っ」

一応挨拶はしてくれたけれど、そのままふいっと顔を背ける影片くん。嵐ちゃんも困った顔をしている。

「みかちゃん…別にせいらちゃんは何もしてないじゃない?」
「やってあの生徒会長さんと知り合いなんやろ…?お師さんの敵やもん…」

やっぱり、それがネックか。
まだ、DDD前でtricksterはfineを倒していない。あんずが影片くんに避けられた理由がtricksterを率いてfineを倒したから。だから現時点では何もなければ仲良くできたのかもしれないと思っていた。

しかし私には天祥院英智の親戚というステータスがある。それはどうこうできるものじゃないし、私が影片くんに避けられてしまうことは生まれて来た時から決まっていたようなものだ。

「いいのよ、嵐ちゃん」

私は一言嵐ちゃんに声をかけ、それから影片くんを見た。彼は一瞬申し訳なさそうな顔をしたが、ふるふると頭を振って睨むようにこちらを見て来た。

「影片くん、よくわからないけれど私のことが苦手ならそれでも構いません。でも私はお友達になりたいと思っているからいつでも話しかけてくださいね」

影片くんは斎宮宗が絶対的なところがあるから、私がなんと言おうと敵だ。だから大人しく引き下がるしかない。

「そろそろ昼休みも終わるし席に着くね」

私は嵐ちゃんにそう声をかけると、睨んでいた顔から申し訳なさそうな顔に戻った影片くんを背に自分の席へと戻った。

20191022



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