「今日からプロデュース科に転校してきました、月城せいらと申します。よろしくお願いします」

無難な挨拶をして当たり障りのない笑顔を浮かべながら礼をする。
一部からほうっと息を飲む声が聞こえた。うん、印象は上々のようだ。

晴れて夢ノ咲へ転校してきた私が配属されたのは2年B組だった。アプリゲーム内ではあんずがA組だったし打倒だろう。B組には影片みかくんがいるし私にとっても好都合だ。

教室を見渡すと知っている顔が目にはいる。興味なさげに肘をついて外を見ている大神晃牙くん。珍しく起きていたと思ったらちらりと私を一別して顔を伏せて寝始めた朔間凛月くん。そんな朔間くんを横目にため息をつく衣更真緒くん。美しいたたずまいで座っている伏見弓弦くん。あらあらと楽しそうに頬を押さえてこちらを見る鳴上嵐くん。そして、私を警戒して睨んでいる影片みかくん。
呼び方はどうしようかと思ったけれどとりあえず名字にくんでいいだろう。心の中ではがっつり呼び捨てだがあんずも名字で呼んでいたはずだしそれがいい。心の中でもなるべく名字で呼ぶことを心がけようと思う。
遠い彼方の記憶にそっくりな彼らを思わず懐かしいだなんて思ってしまった。

それにしても、やはり影片くんには警戒されているようだ。ゲーム内ではあんずですら警戒されていたのだから予想の範囲内………ではあるが、この分だと天祥院英智の親戚だとばれたらさらに警戒されてしまうだろう。

担任に席を指定されてそこに着席する。今日の予定や連絡事項が伝えられしばらくしてHRは終わった。
少し緊張してきた。いくら初対面の人に対する対応というものを準備していて、心配はないといえど緊張はするものだ。まあそれはおくびにもださないのだけれど。

私は完璧でなければならないのだから。
私の人生はようやくスタートを切ったと言っても過言ではない。

HRが終わり最初に誰が声をかけてくるだろうと思いながら教室を見渡すと、すぐに目の前に人影があらわれた。

「転校生が来るって聞いてたけど美人な子が来たじゃな〜い!」
「ありがとうございます」

言われなれた言葉に当たり障りのない返事を返して彼ーーー鳴上嵐くんに笑顔を向けた。おそらく彼が一番はじめに話しかけてくるだろうと思った。彼はゲームでもあんずによく構っていた。

「私は鳴上嵐よ。お姉ちゃんって呼んでね」
「同い年でお姉ちゃんも違和感があるので嵐ちゃんでもよろしいですか?」
「あらあ、残念。ていうかそんな堅苦しい話しかたはなしよ!今日からクラスメイトなんだから!」
「ええ、ありがとう。よろしくね、嵐ちゃん」

本当はお姉ちゃんと呼びたい。が、一定距離以上近づいてしまうのを避けたい。つい、甘えてしまいそうになるし弱いところがばれてしまいそうにならないようにだ。

「お、さっそく仲良くなったみたいだな」

嵐ちゃんと話していると横からもう一人話に加わってきた。

「俺は衣更真緒。あ、俺も堅苦しい言い方なしな。一応生徒会所属してるし困ったことがあったら色々言ってくれ」
「よろしく衣更くん」

男前な台詞をはいた彼はああ、よろしくとにかっと笑って見せた。
それからちらりと遠くの席…眠れる黒王子を見てため息をついた。

「あと…な…あそこで寝てんのが朔間凛月。いろいろめんどくさいやつだけど悪いやつじゃないからよろしくしてやってくれ」

苦笑いしながら衣更くんは朔間くんを紹介する。遠くからま〜くん聞こえてるよ〜と声がしたので起きてはいるようだ。が、挨拶しにくる感じはしないので私に興味はないと言ったところだろう。マイペースである。

さて、残りは大神晃牙くんと伏見弓弦くんと…影片みかくん。
影片くんは相変わらず私を警戒しているので挨拶はそのうちしよう。大神くんも教室の騒がしさに苛立っているようだから今行くのは得策ではないと考えた。
一番はじめは伏見くんが打倒か…とそちらに目を向けようとしたとき、ガラッと勢いよく扉が空いたと思うと、ピンクが目の前に飛び込んできた。それは私を見つけるとキラキラとした笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。それからがしりと私の手を掴んだ。

「はじめまして!ボクは姫宮桃李!貴女がせいら様だよね!英智様からすごい人って聞いてたけど一目見てわかちゃった!」
「ふふ、姫宮くん。元気なのはいいけれど少し落ち着いてくださいますか?」
「あっごめんなさい!」

彼−−−姫宮桃李くんはブンブンと握っていた手を離した。

正直予想外だった。
いくら私が天祥院英智と遠い親戚とはいえ会ったのは子供の頃一度きり。特に興味も示されないと思っていたが、きっちり調べ上げられているようだ。いい印象を抱かれているようだから心配は要らないだろうけど、警戒しておくことに越したことはない。
この学院では生徒会との繋がりは重要なものになってくる。だから生徒会側と仲良くしておくことは、悪い方向には向かわないと思う。
表面上は、だが。

「英智様の親戚なだけあって綺麗だなあ………せいら様、今日のお昼開いてる?一緒にご飯食べよう!あっ生徒会に入らない?英智様もきっといいって言ってくれる!」
「ぼっちゃま、そんなに矢継ぎ早に捲し立てては月城 月城様の迷惑になりますよ」
「うるさいなあ、奴隷は黙っててよ」

姫宮くんの登場に颯爽と現れたのは伏見弓弦くんである。彼は姫宮くんの執事だ。姫宮くんを牽制しに来たように見せかけて私を警戒しているようにも見える。彼も姫宮くんと同じように天祥院英智から私の話はされているように思うが、それでも警戒を怠らないところは執事の鏡だ。
彼に言葉を遮られた姫宮くんはむうっとする。

「月城様、申し遅れました。私は伏見弓弦と申します。こちらのぼっちゃまの使用人を努めております。ぼっちゃま共々よろしくお願い致します」
「ご丁寧にありがとうございます」
「せいら様!こいつボクの奴隷だから好きに使っていいからね!奴隷の癖にせいら様と同じクラスとかほんっとにむかつく!」

ぷんぷんという擬音が聞こえてきそうなほど怒りを露にする姫宮くん。それを軽くあしらう伏見くんは姫宮くんの背を押して教室から出そうとする。と、いうのも来たばかりではあるが朝のHRから次の授業までの間は10分しかないのだ。戻らないと遅刻してしまう。

「ぼっちゃま、そろそろお戻りにならないと授業が始まってしまいますよ」
「ええ〜!まだせいら様とお話ししたいんだけど〜!」
「月城様にもご迷惑がかかりますよ」
「くっそ〜!奴隷の癖に〜!あっせいら様!僕のことは桃李って呼んでね!昼休みにまた来るから〜!」
「ふふ、ではまた桃李くん」

台風のようにやって彼はあっという間にいってしまった。

「ぼっちゃまが申し訳ございませんでした」
「いいえ、気にしないでください。とてもいい子ですね」
「まあそうですね。ぼっちゃまのことで何かありましたらなんでもお申し付けくださいね。あのうるさい口を塞ぐ………おっと失礼しました。落ち着かせるのも使用人の役目ですから」

にっこりと笑顔を浮かべる伏見くんは敵に回してはいけないと思った。笑顔で流したが、内心ひやっとした。

とりあえずこれで伏見くんには挨拶ができた。残りは影片くんと大神くん。
そう思って視線を巡らせると大神くんのところで彼と目があった。さすがに無視する訳にもいかないのでにこりと笑って無理やり自己紹介に持っていくことにする。

「んだよ」
「まだ挨拶をしていないと思いまして。お名前を教えいただいてもよろしいですか?」
「…大神晃牙」
「大神くんですね、よろしくお願いします」

無視されなくてよかった。なんとかミッションコンプリートだ。
大神くんは自分の名前だけ告げるとフンッとそっぽを向く。これ以上関わるなということだろう。

「女の子に対して失礼ねえ〜!でも悪い子じゃないのよ?」
「ええ、無視をしないで答えて貰えたからきっとそうね」

ちらりと大神くんを見やるとふんと鼻を鳴らしていた。とっつきにくいように見える大神くんだが、アプリ内であんずが困っているとぶっきらぼうではあるが手伝っていたので、本当は優しいいい子なのである。

さて、あとは影片くん………だが少し席が遠い。自分から席を立つのは不自然すぎるし、嵐ちゃん伝いに紹介してもらえるまで待つのが吉だ。

今の私は敵でしかないだろうし、彼が歩み寄ってくれるまでま気長に待つしかない。

それからすぐにチャイムが鳴り、朝の時間は終わった。


20190531



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