幼い頃からしっかりした子だと言われていたけど、前世の知識があるならば当たり前だと思う。
私はこの世界に生を受けた瞬間から前世の知識があった。
だから生まれた時から言葉や物事を理解できた−−−…と言っても赤ん坊がいきなり流暢に話し出すのもおかしいだろうから、楽しいときは笑顔を浮かべ、嫌なことは泣いて訴えることで自分の意思を伝えてきた。
そんな私が生まれついた家は大きな財閥で、私はその家にやっと生れた待望の子供らしい。母が子供のできにくい体質らしく、大変喜ばれた。
母は毎日幸せそうに私を抱き、歌を歌ってくれる。昔は歌手をやっていたらしい。父と結婚してからは父を支えるために引退してしまったようだが、いまでも現役で歌えるくらい美しい声だった。
父はまだ若いながらに祖父の仕事を手伝いながら多くの事業で成功を納めており、それゆえに忙しいらしくたまにしか顔を見れなかったが、会ったときにはひどいくらいのでれでれとした顔を向けてくるので愛されているのがわかる。



衝撃的な事実を知ったのは私がはじめて親戚同士の食事会−−−とは言いつつも一般人の私たちが少し高めのお店を貸し切るとかいう小さなものではなく、立派なパーティーとなっている−−−に行ったときのことだ。私のお披露目も兼ねた食事会で彼に出会った。

"天祥院英智"

私と変わらない赤ん坊姿の彼だった。そんなはずは、と彼を凝視していると、すやすやと眠る彼が目を覚ました。アイスブルーの瞳と目が合う。
まだなにも知らない澄んだ瞳が私を捉えていた。

前世の知識で私のなかに一番色濃く残っていた記憶。
"あんさんぶるスターズ"というアプリゲームだ。ただのアプリゲーム、だけど私にとって大好きで仕方がなかったもの。
そのなかで特に好きだったキャラがいる。夢ノ咲の帝王。厳密に計算された完璧、もはやそれは造形美で一種の芸術だった。彼の調律に私は虜になった。彼のそばにいて彼の支えになりたいと思っていた。
本当に好きだったんだ。

なんの縁かわからないが私はゲームの世界だったはずの世界に生まれた。なぜ、とかどうして、とかそんなことはどうでもいい。
もし、もしも彼の側に立てるのなら。

私は計画をたてた。
彼に見合う私になるための計画。
彼の隣に立っても見劣りしないように、完璧を目指した。性格も容姿も頭脳も完璧に。
小学生までは完璧な自分を作ることに徹した。

問題としてどうやって夢ノ咲に入るかだ。プロデュース科の枠を勝ち取らなくてはいけない。しかしそれは無理だろう。私は本来存在するヒロインであるあんずとはかけ離れた生い立ちだ。私が彼女の成り代わりでないならプロデュース科の枠を勝ち取るのは無理だ。
なら、プロデュース科の枠を増やさなくてはならない。それは、その、私の家の財力をもってすれば叶う。あまりよくないが利用できるものは利用していこうと決めたのでなんとでも言え。

ただ、なにか理由がなくてはいけない。
そのために私はあんずに出会わなければならない。そして彼女の親友となる。
彼女に夢ノ咲への転入の話が決まるときに私も行きたいと言えばいい。
あいにく私には友達がいなかった。完璧すぎるゆえに、高嶺の花のようにみんな一歩離れて接してくるのだ。そんな私にできた親友と呼べる女の子。その子と同じ学校に行きたいと行ったら………というわけだ。
なんて言うのはいいがはっきり言って無謀すぎる。成功する確率なんて0に等しいんじゃないだろうか。
第一彼女をどうやって探したらいいのだろうか。それが一番の難点だった。

しかし奇跡は起きてしまった。

それは私が小学生5年生のころ。両親とテーマパークに訪れたときだ。
お金持ちだからといって断じて貸しきりだとかそんなことはしていない。純粋にテレビのCMを見て楽しそうだなあと言ったら、私に甘々な両親は忙しいというのに休みをとって連れてきてくれたのだ。というか両親が私と来たかっただけだと思う。
それはさておき、楽しく遊んでいた私だったが、ふと後ろから肩を叩かれた。なんだろうと振り向くと私と同じ年くらいの女の子。彼女はにっこりと笑って自分の手元を見せてくる。そこには私のハンカチが握られていた。ポケットを確認すると確かになくなっている。落としたのだろう。

「ありがとうございます」

私がそういって受けとると、どういたしましてとそれだけ言って、彼女は自分の両親のもとへと戻っていった。

私は確信した、彼女があんずだと。
理由なんてない。
ただ、なぜか、わかった。

私はすぐにそばにいたSPに彼女の住所を探るように言った。もう一度ちゃんとお礼をしにいくため。
そして、友達になるため。

住所を調べてもらった結果、やっぱり彼女の名前はあんずで、私の家のそばに住んでいた。

音星あんず、彼女が私の探していたあのあんずだ。

次の日に菓子折を持って私は彼女の家の戸を叩いた。インターホンを押してでてきたのは会いたかった彼女。

「こんにちは。昨日はハンカチを拾っていただきありがとうございました。再度お礼をしたくて勝手ながらご住所を調べさせていただきました」

彼女は少し驚いた顔をしたけれど、そのあとにっこり笑って、よかったらあがってと私を招き入れてくれた。

こんなものしかないけど、と並べられたのはスナック菓子。ぶっちゃけ月城家ではスナック菓子なんて食べられないので思わず歓喜してしまった。
お菓子を食べながらいろんなことを話した。あんずは私がお金持ちであるのに萎縮したりせず、ただの一人の女の子として接してくれた。アプリゲームをしていたときも度胸のある子だと思っていたが、本当に小学生にしては肝が座っている。

さすがに何時間も居座るわけには行かないので、ある程度時間がしたら迎えを読んで帰ることにした。

「あのね、音星さん…よかったら私と、お、お友だちになってください…!」

玄関口でばくばくと音をたてる心臓を押さえながらあんずに問う。とてつもなく緊張した。そんな私を見てあんずはくすりと笑い、もうとっくに友達だと言った。
また遊びに来て、とも言ってくれた。
車の中でにやける頬を押さえることができなかった。

それから私はしつこくない程度にあんずの家に遊びにいったり、一緒に出掛けたりして、仲を深めていった。
中学はあんずと同じところにした。というか両親が勝手に決めていた。私にできたはじめての友達というのが嬉しくて仕方ないのだろう。本当に私に甘すぎる。そんな二人が大好きなんだけど。
中学は何事もなく卒業まで迎えた。あんずのお陰で彼女以外にも友達ができて、本当に楽しかった。
せっかく仲良くなったし高校もあんずと同じところ、としたかったが、さすがに学力差がある。決してあんずの頭が悪いわけではないけれど同じところに通うのは難しかった。
けれど中学3年生になってすぐのころだ、模試の成績を掲げたあんずは私に笑って合格圏に入ったのと言った。
よく見るとあんずの名前がかかれた成績表には私の志望校である高校のA判定が書かれていた。

「あんず、これ、」

私がびっくりしてその成績表を凝視していると、少し頑張ればせいらちゃんと同じところに行けるって言われたから頑張っちゃった、なんて言うから私は嬉しくてあんずに抱きついた。

それから二人とも無事高校に合格。そして高校二年生、ついにあんずに夢ノ咲学院プロデュース科への転校の話が来た。どうしようというあんずに、私は笑顔で待っててと言った。それから両親にこのことを話し、見事夢ノ咲学院プロデュース科への転校を決めた。とんとん拍子に事が進んだのはそれ相応の努力を怠らなかったからだろうか。

彼の隣に並べるように準備はしてきた。
いや、隣とは言わないから彼を支えてあげられたらそれでいい。

こうして私は、今日、ついに夢ノ咲学院に足を踏みいれる。


20170609



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