薫が授業中に中庭を通りかかると、ひなたですやすやと眠る累を見つけた。もちろん授業中ということで薫は絶賛さぼり中だ。つまり、累もさぼっている、ということになる。
累がさぼるなんて珍しい、と思いながら近づいて顔を覗き見る。まるで女の子が眠っているようだ。なんでこれが男なんだろうと薫から思わずため息が出る。こんなところで寝ていたら襲われかねないのではないかと思えるほど、累の寝ている姿は女の子にしか見えなかった。
いくら累が男であると言っても今の学院の荒れ具合から襲われる…なんてことがあり得なくも無い。もちろん薫自身は死んでもそんなことしないが。

俺ってば優しいだとか思いながら薫は起こすために累へと手を伸ばした。

その次の瞬間、薫は空を見上げていた。

「なんだ、薫じゃない」

そう言った累は覆いかぶさっていた薫から離れた。
ふあ、とあくびをする累と、背中に感じる地面に草の香り、目の前に広がる空を見て、薫は累に一瞬で押し倒されたということを理解した。

「また不躾なやつらが襲いに来たのかと思っちゃったじゃない」
「いやちょっと待って、なにいまの」
「何って、自己防衛?たまにいるのよねえ、襲いにくる馬鹿が。全部返り討ちにしてやったわ」

けろりと言ってのけた累はぐっと伸びをした。

とりあえず薫も上半身を起こす。すると背中が痛みを訴えた。立っている状態から倒されたのだから当たり前であるがとんだ災難である。

「どこでそんなの身に付けてきたの…」
「慣れ?昔からこういうの多かったのよねえ。それに相手は油断してるでしょ?簡単に倒せるのよ。女じゃないから力だってあるしね」

累は不適に笑う。
おそらく累を襲った不届きものは一人残らず何らかの制裁を加えられたことだろう。もはやどちらが被害者なのかわからない。

「それだけ危機管理してたんならなんでこんなとこで寝てたの?」
「…しまった奏汰に逃げられた」
「奏汰くん?」
「噴水で水浴びしてたから午後からは授業に出れるようにって連れ出したの。まあ案の定引きずり込まれて私もずぶ濡れになったけど…ちょうど天気もいいしここにいれば乾くかと思ったら…」
「寝ちゃったわけ?」
「不覚だったわ…」

累は頭を抱える。
今日は暑すぎない心地のよい気温で太陽の光が暖かく感じられる。調度お昼を食べた後でお腹も一杯だった。そのときの累にこれだけの条件が揃ってしまっていたとなれば寝てしまうのも仕方ないと言えるかもしれない。

「そういうあんたはなに?またサボり?」
「う〜ん、まあねえ」

薫は累の質問に曖昧にごまかした。

「薫、ちょっと来なさい」
「え?なに?」

累は突然、手招きをして呼ぶ。
怪しいと思いつつも累の方へ体を寄せると次の瞬間、薫は再び空を見上げていた。

「えっちょっとなに?男の膝枕とかないんだけど」

先程は固い地面だったが今度は累の膝の上に押し倒された薫。地面ほどは固くないが女の子のそれよりは柔らかくない。

「寝不足でしょ。あんたもしかして毎回保健室にでも行ってるの?なんか悩みでもあるわけ?」

いとも簡単に見抜かれてしまったことに薫は目を見開く。

「アイドルが隈なんて作ってんじゃないわよ」

累は自分の目をトントンと指差しながら言う。

「だからって膝枕はないんだけど」
「なにもないよりましじゃない?ていうか悩みがあるなら相談しなさいよね、その、一応、あんたとは仲いいと思ってんだから」

ツンとそっぽを向いた累。
薫は数秒呆気にとられて呆けてしまったが、累の珍しいデレだとわかったとたんクスクス笑い出す。
腕で隠していたが声と小刻みに揺れる体に笑っていると累にばれ、うるさいと怒られた。

あちこちふらふらしている自分なんて累の眼中にないと思っていた薫にとって累の言葉は本当に嬉しいものだった。
なんせ累はあの五奇人と仲が良い。自分なんてその次くらいにちょっと仲がいいやつくらいだと思っていた。
しかし、薫はそう思っていたが累はそうじゃなかった。
累は、五奇人が気の合う仲間だとしたら薫は親友のようなものと考えていた。似ているようで少し違う、 累にとって大事な友人であることにはかわりなかった。

「まあ、ありがとって言っておく」
「普通に言いなさいよ」

甘えてもいいと言われたようで、照れ臭くなってお礼をごまかす薫はそのまま目を閉じた。
さすがに今まで男友達で適度な関係だったところから甘えるなんてできないが、今日くらいならいいかと思ってしまったのだ。この学校の男たちはスキンシップ過多なところもあるし、行動自体は目立たないだろう。

もしも累が女の子だったらいいのに。
薫はまどろみながら思ったが、女の子でも可愛いげのない累だけはないなと思いながら眠りに落ちていった。



20161108
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