「影片と仁兎はまだなのか!」

学院前で宗が吠える。その隣で携帯をいじる累はうるさいとばかりに顔をしかめながら、先程SNSにみかから来た文を読み上げた。

「ちょっと遅れるって」
「なんでお前と二人きりでいなければならないのだ」
「こんなにかわいい私と居て何が不満なわけ?」
「お前など仁兎の足元にも及ばん」
「このショタコン!!!」

相変わらず二人の口喧嘩は絶えない。通りすぎる人々はなるべく距離をとっていく。二人はとてもよく目立っていた。

なぜ二人がこうして校門前に集まっているか、と言うと、衣装を作るために材料を調達しに手芸店へ向かうからである。当初は宗とみか、なずなのみで向かう予定だったが、累も行く予定だと聞いたみかが累も一緒に行かないかと誘ったからだ。
そのみかは何やら遅れるようで累と宗という二人きりにしてはいけない二人が揃ってしまった。

「わ〜俺が悪かったから二人とも喧嘩せんといて〜!!!」

ようやくなずなの手を引きながら二人のもとへ着いたみかは急いで二人の間にはいる。
それから宗に向かって両手を合わせて謝った。

「ごめんなあお師さん、なずな兄ィのリボンが見つからなくてなあ」
「それなら仕方ないのだよ」

なずなにだけは甘い宗はみかの言葉を聞いて少しは怒りを納めたようだ。

一方、みかに連れられてやって来たなずなは累をじっと見ていた。少し心配を含んだそれに気づいた累は優しく笑いながら、

「ああ、宗に酷いこと言われなかったかって?大丈夫よ。ていうかいつものことじゃない」

なずなの頭を撫でた。
それに対してなずなはちょっと拗ねたような反応をする。

「子供扱いするなって?だってなずなかわいいんだもの」

クスクスと累が笑うといつもの無表情を少しだけ崩してむっとした。

同い年である累となずなであるが、累はつい、なずなのことを子供扱いしてしまう。宗が気に入ることだけあってなずなはとても可愛らしく、どうしてもみかと同じ扱いになってしまうのだ。

「なずな兄ィと累姉ェすっごいかわいいなあお師さん」

みかの言う通り姉と弟にも見える二人のやり取りはとても微笑ましく、見ているだけで癒された。

「ああ…仁兎…!貴様のせいだと言うのが少し腹だたしいが…拗ねた顔も可愛らしい…!」

普段無表情を貫くなずなの表情の変化はとても貴重なものだ。それを見ることができた宗は恍惚とした表情を浮かべた。
累のお陰で見れたというところは少し引っ掛かるところではあったが、そんなことよりなずなの可愛らしさのほうが重要であるらしい。
そんな宗を見て累は心底軽蔑した目を向けてなずなの手を引く。

「うるさいわショタコン!!あんなのほっといていくわよ!」
「仁兎!そんなやつのところではなくこちらへ来い!」

まるでなずなを取り合うかのようになずなを真ん中にして言い合いながら歩く累と宗。後ろで見ていたみかはまるで子を取り合う親のようだと思ったが、そんなことを言った日には二人から鋭い視線を向けられるために心のなかにしまった。

最初は口喧嘩であったが、途中でなずなが如何にかわいいかと言う話にすり変わってきている。真ん中にいるなずなは居心地が悪そうだ。みかは時折寄越されるなずなの助けを求める視線に苦笑いをする。助けてやりたいとも思うが、累と宗が楽しそうに話すのを邪魔したくないという気持ちがあって、みかは心の中でなずなに謝るのであった。



「こっちのレースは?」
「ノンッ、それだと目立ちすぎなのだよ」

宗の言葉に珍しく噛みつくことなく累はそのレースをもとの場所に戻した。

「なかなかないわねえ…あ、それは?」
「うむ、いいだろう」
「うん、私もそう思うわ」

目的地である手芸店で累と宗は珍しく意見を一致させていた。二人は洋服のデザインを話し合う点ではーーーもちろん口喧嘩が全くないというわけではないのだがーーー最終的にたどり着くのは同じ意見になる。
そして、こういうときは、みかもなずなも口を出すことが出来ない。二人の顔は真剣そのもので口を出す必要もないとも言う。

せっかくお店についてきたがみかとなずなは時折呼ばれて布を当てられるお人形をしているだけで、その他の間は二人から遠くなりすぎない距離で店内を見ているだけだった。
二人の様子を横目に店内を見ていたみから背中の洋服を誰かに引っ張られた。

「んあ、なんやなずな兄ィか…どないしたん?」

振り向くとそこにはなずながいて、少しだけ怒った顔をしている。何に怒っているか、おそらく先程累と宗から助けなかったことだろう。

「なずな兄ィ怒らんといて〜。助けたいとは思うてんけど累姉ェもお師さんも楽しそうやからついなあ」

嬉しそうに笑うみかになずなはこれ以上怒れなかった。
累がいるときの宗は確かに少しだけ楽しそうなのだ。そもそも宗と対等に話せる人が少なすぎた。累と言い合っているときの宗は生き生きとしているように見える。
みかと同じようになずなも、少なからずそう感じていた。そして自分も、二人が楽しそうだと嬉しくなるのは確かだった。

「ずっとこうやって笑ってられたらええなあ」

遠くからみかとなずなを呼ぶ宗の声にみかはどうしたん〜?と嬉しそうに駆け寄っていく。

なずなは悩んでいた。本当にこのまま宗の人形でいていいのかを。自分を押さえて決められたように動き続けているままでいいのかを。

でも…でも今だけは。
それを忘れて幸せに浸っていたいと思ってしまった。

無表情のままなずなはみかの後を追って累と宗の元へと向かった。



20161105
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -