「宗!今度のライブの衣装を作りなさい!」
手芸部の部室に飛び込むなり累は堂々と告げた。
それに答えるように舌打ちが聞こえる。
「ノン!命令される筋合いはないのだよ」
この手芸部の主、宗はこの上なく嫌そうな顔をして言った。
そんな宗に累はため息をつき、
「仕方ないわねえ、」
と言って切り替えるように一息吐き出す。それから、
「おねがいっ」
累が出せる最大限の可愛らしい動作で、甘ったるい声でそう言った。語尾にハートでもついていそうな雰囲気である。
大概の男なら一つ返事でその累のおねがいとやらを了承してしまうだろう。
しかし、宗は違った。
「影片!仁兎の目を塞げ!こんな気持ち悪いものを見せてはいけない!」
宗は同室にいたみかに彼の最愛のお人形であるなずなの目を塞がせた。
「気持ち悪いってなによ!」
「そのまんまなのだよ」
二人は睨み会う。喧嘩するほど、仲がいい。この二人にはそれが一番似合うかと思われる。宗は誰にたいしても辛辣な態度を貫くのだが、累もそれに対して噛みついてしまう。その結果口喧嘩へと発展してしまうのだ。
はじめて会ったときもそうである。困っていたみかを助けたことで宗と知り合うことになったのだが初対面で二人は口喧嘩をはじめた。そのときはみかが宥めてなんとか場は収まったが、その後累とみかは仲良くなり、みかは高確率で宗と一緒にいるために必然的に宗に会う回数が増えて、今では喧嘩友達と言ってもいいような関係である。
「累姉ェかわいかったで!」
喧嘩する度に宥めるのはみかであり、今回も例に見ず、すかさず累のフォローにはいる。
「みかがなんでこんな変態のところにいるのかわかんないわ…私のところに来ない?」
「累姉ェごめんなあ…俺、お師さんが好きやねん!」
迷うことなく言うみかに心底残念そうな顔をして累はみかの頭を撫でる。
「ところで衣装なら俺が作ったろか?」
「ほんと?じゃあお願いしちゃおうかしら。どっかの誰かさんは意地悪だし」
ちらりと宗を見るが宗は興味ないと言いたげにこちらすら見ていなかった。
その代わりに彼の手にするお人形…マドモアゼルがこちらを向いていた。
「累くん、衣装なら自分で作れるんじゃないの?」
「確かにマドモアゼルの言う通りだけど、宗に作ってもらう方が出来がいいのよ」
そう、累は確かに自分で衣装を作ることができるのだ。いくら宗の腕がいいからと言って常に宗に頼んでいるわけにもいかない。宗だって自分のユニットの衣装を作らなくてはならないと知っているから、累はちゃんと時期を見極めて頼みに来ている。
確かに今宗たちのユニットはライブに出る予定も、新しく衣装を作る予定もなかったのだ。
「宗くんを誉めたってなにもでないわよ」
「別に事実を言っただけよ」
この後、練習の予定が入っている累はじゃあよろしくねと言って教室を出ていく。宗はその後ろ姿をじっと見ていた。
「お待たせ累姉ェお洋服できたで!」
みかに放課後手芸部の部室に来てくれと言われて累が訪れると、案の定頼んでいた洋服が仕上がっていた。
今回のコンセプトは夜空。紺の生地で色味は落ち着いているがふんだんにフリルがあしらわれていてかわいい。そしてキラキラとちりばめられたビーズは夜空に浮かぶ星をイメージさせる。オーダー通りの衣装に仕上がっており、累は満足そうにみかにお礼を言った。
「累姉ェちょっとだけ耳かしてくれへん?」
みかはちらりと宗を見ながら累のことを手招きして呼ぶ。なんだろうかと思いながら累はみかに耳を貸す。
「実はな、ほとんどお師さんがつくってん。なんだかんだ累姉ェのこと大好きやからお師さんのこと嫌いにならんといてな」
累の耳に手を当てて小さな声でみかはそう告げ、へにゃりと困った顔をして笑った。やっぱり宗のそばにいるのは勿体ないと思いながら、今度は累がみかを手招きして呼んだ。みかが疑問符を浮かべながら近づいてきたのでその耳にそっと近づいて、
「ふふ、教えてくれてありがとう。でもね、嫌いだったら私だって宗に洋服作れなんて言わないわ。だから心配しないで」
そう言うと、みかは嬉しそうに笑った。
宗との距離は喧嘩しているくらいがちょうどいい。おそらく宗もそう思っているだろうし、これが二人の友達の形である。
20161027
→過去にマドモアゼルが話せるかというと話せない気がするのでいつか直します