「るいはおんなのこなんですか〜?」
奏汰はなんの脈略もなく累にそう聞いた。純粋に疑問に思ったというような顔で首をかしげて聞く奏汰に累はため息をつく。この手の質問はもう飽きるほどされていた。
「男に決まってるでしょ、奏汰の目は節穴にでもなったわけ?」
「だってみためはおんなのこですよ?」
「確かに累姉さんは男には見えないヨ」
側にいた夏目も奏汰に同意する。いや、夏目でなくても同意しかしないだろう。相変わらず女子制服に身を纏う累はかわいらしい女の子にしか見えない。
「似合うからいいじゃない。ていうか今さらすぎ」
「ん〜そうですね〜」
そういう奏汰と累の関係はもう1年も前から続いている。薫を通して出会った奏汰も三奇人と言われるだけあってなかなか変わっていた。そのため初対面で女装をしている累を見ても疑問に思わなかった。
だから先ほどの質問は今さらすぎるし奏汰自身もふと思っただけで特に意味があったわけではなかった。
「累姉さんは女の子になりたい訳じゃないノ?」
「何か勘違いしてるようだけど私は男なの」
夏目はそう言う累を頭の先から足元まで見て、そしてふわりと累の桃色の髪を掬って落とした。それから、
「ふうん、よくわからないヤ」
と言って肩をすくめて笑った。
夏目とは奏汰や零を通して出会ったが彼もまた三奇人とまではいかないが五奇人と言われるいわゆる変人である。累のことを理解はしないものの否定をすることはなかった。
「ま、それでいいんじゃない?夏目が女装してるのなんて見たくないし」
「やめてくれないかな」
累の言葉に夏目のいつもの不思議なしゃべり方が消える。決して似合わないということはないだろうがあいにく夏目にそんな趣味はなかった。
いや、正確には過去に女の子の格好をしていたことはあるが、あれはやりたくてやっていた訳ではない。
話している間に奏汰はいつのまにか移動しようとしていた。それを見た累は声をかける。
「奏汰どこいくの?」
「ふんすいにおよぎにいきます!るいもいっしょにぷかぷかしましょう」
「しないわよ…」
累は強く奏汰を睨んだ。と、いうのも累は水浴びをする奏汰に噴水へと引きずり込まれたことがある。それは一度ではなく複数回あり、水浴びをする奏汰には用がない限り近づかないことにしていた。
「奏汰兄さんタオルだけは持っていってネ」
「なっちゃんもぷかぷか」
「しないヨ」
累にも夏目にも断られてしまった奏汰は残念ですとしょぼんとしながら部屋を出ていく。
「ってタオル持っていった?」
「たぶんなにも持ってなかったカナ」
夏目の声に累は大きくため息をつく。それから自分の鞄を漁ってタオルを取り出した。水浴びをする奏汰には近づきたくない、がそれよりも奏多に風邪を引かれるのが嫌だと思ったからだ。
「僕、累姉さんのそういうところ好きだヨ」
「あっそ」
ぷいっとそっぽを向いて出ていった累の耳はほんのりと赤くなっていて、それを見て夏目は思わずくすりと笑ってしまったのであった。
20161012