「おはよう薫」

累は友人の薫を見掛け声をかけた。
その声に反応し、だるそうな目をこちらに向けた彼は、

「ん、ああおはよ」

そう言ってひらりと手を挙げた。
特に用件があったわけでないが、二人は会えば他愛ない話をするくらいの仲である。

彼らの出会いは入学してしばらくたったころ、薫が累をナンパしたのが始まりだった。もちろん夢ノ咲学院に通っているということは彼らは二人とも男だ。ではなぜ男が男をナンパすると言う状況ができたのか。それは累の容姿にあった。

彼は可愛らしいピンク色の髪だった。それだけならよかったのだが、彼の髪は長くて、それから二つに結われていた。後ろから見れば女の子にしか見えない。それに加えて切れ長ではあるがまつげが長くパッチリとした目に、薄く色づいたピンク色の唇は、正面から見ても女の子にしか見えなかったのだ。極めつけには女子制服の着用。逆に男と言われて信じられないだろう。
そんな累をナンパした薫は彼に遊ばれて終わるのだが、長くなるので割愛する。

この日も彼らは昨日あったことや今日の授業のことについてなど他愛のない会話をしていた。

そんな二人の、正確には累の後ろに忍び寄る影が一つ。

「あ、」

薫はそれに気づいて声をあげた。まずい、といったような声色だ。
それについて累がどうかした?と尋ねる前に彼の背のスカートが浮いた。

「きゃあ!」

累は驚いて勢いよく前に一歩でてしまい、薫に抱きつくことになってしまった。

「なんだよ色気ね〜な」

累のスカートをめくった男ーー零はまじまじと累のスカートの中身を見て不満そうな声を漏らした。

「当たり前じゃない!ばっかじゃないの!」

声の主に気づいた累はすぐさま振り返り怒りを現わにする。
色気がないのも当たり前で彼は見せパンと言われるスパッツを着用していた。もっと言うとその下には男性用下着である。零の想像していたであろう''それ''は履いていなかった。彼はアイドルとして女の子のような可愛らしい格好として売っているだけで心は男である。女の子になりたい訳ではない。だから下着は男性用を着用していたし、もしそれが見えたとしても不格好に思わないようにスパッツを着用していた。

「ああ、これが女の子なら良かったのに…」
「薫はなんなの?私じゃ不満なわけ?」
「だって男じゃん」
「こんなにかわいいじゃない」
「男じゃん!!!」

累に抱きつかれた薫は心底残念そうな顔をしていた。相変わらずというか、彼らしいというか。
再度男じゃん!と主張したところを累の蹴りによって沈められた。

「俺を無視するとはいい度胸じゃねえか」
「うるさい変態」

意図的に零を無視していた累は再度話しかけられて苛つきながら悪態をつく。何が面白いのか零はそれを見てクツクツと笑った。

零はことあるごとに累にちょっかいを出していた。累はそれが腹立たしくて仕方なかったし零のことが大嫌いであった。それに対して零は累のことを気に入っておりーー―まあお気に入りのオモチャといったところだろうーー―何かと累に近づきたがる。そのためこの二人のこの喧嘩にも似たやり取りは夢ノ咲ではよく見られる光景であった。

「変態ってなんだよ」
「スカートめくりなんて小学生がやることよ。しかもこんな男のパンツを見たがるなんて変態で充分だわ」
「あ?うるせ〜のはこの口か?」

がしりと累の顎を掴んで上を向かせる零。累はふざけるんじゃないとでも言いたげな顔で零を睨み付けた。
そのまま口を開いて何を言うかと思ったら、その口は零の指を噛んだ。
それも思い切り。
痛みに零の顔が歪む。
その隙に累は零の手から抜け出した。

「薫、行くわよ!」
「わっ、ちょっと引っ張らないでよ」

累は今だにうずくまっていた薫の首根っこをつかむと歩き出す。これ以上零と話すという無駄な労力を使いたくなかったからだ。

残された零の指についた噛みあとから血が流れ出す。累は本当に容赦なく噛んだようだ。

「俺は血が苦手なんだがなあ」

それをペロリとなめとった零はまた面白そうにクツクツと笑っていた。



20161004
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