教室を出た瞬間に目の前現れた薔薇に累は足を止めた。

「親愛なる我がプリンセス!お迎えに参りましたよ…☆」
「…相変わらず騒がしいわね」

にっこにこと笑みを浮かべて薔薇を差し出していたのは渉であった。

「ふふふ、相変わらず累は冷たいですね!それもまた貴方の魅力ですが!」
「はいはい、んで、今日は何のよう?」
「次回の衣装が完成しましたのでね!試着をお願いしたいと思いまして」

ああなるほどと累は思った。
渉は演劇部に所属している。夢ノ咲の部活動はそれほど盛んではなく本人たちの気まぐれで集まって行われることが多い。そして演劇部もまた渉の気まぐれによって公演が決まる。それに累は参加するときがあった。というのも渉が累をスカウトしたのだ。それから渉に気に入られた累は度々舞台に誘われるようになった。今回もその一つである。

渉と累は演劇部の部室へと移動してきた。

「北斗くん!累の衣装をこちらへ!」

さっそくというように渉は部室で待機していた同じ演劇部員の北斗に声をかけた。北斗は少し疲れた顔をしながら衣装を手に累の元へ来た。それもそのはずで変人と言われる渉にいわゆる普通である北斗は振り回されっぱなしなのだ。渉のことをあしらえるのは同じように変人なやつだけだと北斗は思っている。

「…大丈夫?」
「ええまあ…広瀬先輩がいるなら少しはましになるので頑張ります」

疲れきった顔の北斗に思わず同情する累。頑張れの意味を込めてそっと背を叩いて衣装を受け取った。

男子だけなので更衣室は部室そのものだ。荷物をおろした累は着替え始めた。

「…なによ人のことジロジロ見て」

累は視線を感じてそちらを睨み付ける。

「いやあ堂々と脱ぐんだなあと思いましてね!なんだか見てはいけないものを見ている気分ですよ!」

渉は悪びれた様子もなくいい放った。確かに女の子にしか見えない累の着替えシーンは男からしたら見てはいけない気がしてくる。北斗も最初の頃はほんのり顔を赤らめて視線をそらしていたくらいだ。今となっては慣れて他の仕事をし始めている。

「別に男同士だし隠す必要なんてないでしょ…」
「そうなんですけどねえ…いやはや、累は本当に面白い」

確かに男同士だから隠す必要はない。累の言うことは最もだが一般的に女の子の格好をして生活している人たちはこういうことはしない、と思うのが渉の考えであり大抵の人が思うことだろう。累はそれとは違う。それが渉にとって面白くて仕方なかった。

「ていうか渉だって女装するじゃない…」
「そうですね…今度は女の子同士の禁断の恋の話を演じるのもいいかもしれません」
「なんでそうなるのよ…」

渉との会話は成り立たないと知っているのでただただ呆れる累であった。



20161014
→過去の北斗と言動があまりに違うのでいつか修正します
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