ぽたりぽたりと点滴の雫が落ちる。
累は病院の一室でそれをじいっと眺めていた。

渉のライブが終わった後、衰弱しきっていた累は倒れ、病院へと運ばれた。極度の疲れと栄養失調だそうだ。
渉のライブ前には、笑顔を見せていて悲しみから立ち直り前を見始めていたように思えたが、完全には元に戻れそうにはなかった。

そんな累の病室にこんこんと扉を叩く音がする。
ゆっくりと体を起こしながら扉の外の人物にいいわよと声をかける。

開いた扉の外には夏目がいた。

この病室を訪れるのは夏目ぐらいだった。他の五奇人たちは来ていない。それでいいと累は思っていた。
あの時累は傷ついていく彼らを見ていることしかできなかった。それが悔しくて仕方ない。彼らに会うとそれを思い出してしまうのだ。無理に笑っていた彼らの顔を。悲しみに染まる顔を。彼らもそれを見越して訪れることを避けているのだろう。今は少しの療養が欲しかった。

夏目は体を起こしている累を見るや否や駆け寄ってくる。

「累姉さん、まだ寝てなきゃダメだヨ」
「別に少しくらい…大丈夫よ」

そうは言うものの声に覇気はなかったし、顔色も未だ悪いままだ。

夏目は累の肩を押して無理やり寝かせた。
横になると、累は夏目から目をそらし、片腕で目を覆う。
情けなくてこんな姿を大切な後輩に見せたくなかった。

「あのね、夏目。私は、必死だったとは言え私は自分の歌やパフォーマンスを武器にして戦おうとした。確かに私たちの武器は歌やパフォーマンス。でも私はそれを凶器として、人を倒すための武器として使おうとした。自分が許せないのよ」

累が一番気にしていたことはそれだった。ファンが楽しめるライブをすることが累のモットーだ。だからライブ対決形式のドリフェスが嫌いだったし、出ることも控えていた。それなのにあんな風に自分のためだけにライブをしようだなんて、累のプライドが累自身を許すことができなかった。


「悔しい…結局私は戦う前にあいつに負けていたのよ…自分すら見失って…そしてこのざまよ」
「累姉さん…」

何もできない歯がゆさは同じ立場であった夏目にもよくわかる。

しばらく部屋に沈黙が続いた。

累は唇を噛み締めて拳を強く握りしめていた。
悔しくて情けなくて、自分が許せない。それが累をあの物語の舞台上に縛り付けていた。
夏目が累に仕方がなかった、累は間違ってないと言っても、累が自分で自分を許さない限り前に進めないだろう。

そんな累を見て、夏目は決意を固めた。

「累姉さん、ボクはあなたにずっと笑っていて欲しいナ」
「…私も笑っていたかったわ」

その声に夏目は累の手を取り強く握りしめた。
ようやく累の顔が見える。

「魔法をかけてあげるヨ」

その声は震えていた気がする。

夏目はじっと累の目を見つめた。

するとどんどんと累の瞼は重くなっていく。抗議の声をあげようにも、夏目の目がそれをさせてくれない。

「きっとこれが最善策ダ」

じゃあなぜそんな泣きそうな顔をしているの。
その言葉を声に出せないまま累は瞼を閉じてしまった。

「Good Night、プリンセス」

次目覚める時、幸せであれるように願いながら、夏目は累の頭を優しく撫でた。



20170424
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