あれから累は宗には会えていなかった。家には行ったのだがみかにやんわりと今はそっとしておいてほしいと言われ、追い返されてしまった。

また、零にも会えていない。彼は、留学していた夢ノ咲の姉妹校に行くにあたって、ときたまいなくなることはあった。しかしこんなに長期に空けることなどなかったはずだった。

それから奏汰にも会えていない。なぜか避けられているのだ。いつも噴水にいるはずの奏汰は忽然と姿を消した。何かがあったらしい、ということは周りの噂から知っている。けれど大事な部分は累の耳に入って来ていない。知っているだろう零や渉に聞いても、その件から遠ざけるように教えてくれなかった。

放課後になると、奏汰がいそうな場所を回るのが日課になっていた。

そして、会えなくなってから数日、累は噴水近くを歩いている水色をようやくとらえた。
逃げられてしまう前に、と急いで走る。

「奏汰…!」

累が腕を掴むと奏汰は立ち止まる。まるで自ら捕まりに来たようにあっさりと捕まえることができた。奏汰は息を切らす累を見て、くしゃりと顔を歪ませて笑った。

「ひさしぶりですね るい」
「どうして…どうして私から逃げるの」
「なんのことでしょう?」
「とぼけないでよ!」

思わず手に力が入ってしまい、奏汰が痛いと言った。それでも今力を緩めたら奏汰がいなくなってしまいそうで、累は離すことができなかった。

「るいは なにもしんぱいしなくていいんですよ」

奏汰は優しく累の手を包み込み、一つ一つ指を剥がして自分の腕から手を離させた。

「るいは ぼくたちの おひめさまなんですから」
「そんなの望んでないわ」
「るい ぼくたちはだいじょうぶです」

大丈夫、みんな揃ってそういうだけで、肝心なところは教えてくれない。なんで、どうしてが積み上がって苛立ちがこみ上げる。
お姫様のように大事に守られて、争いから一番遠いところで傍観なんて、嫌だった。奏汰たちだってそれを知っているはずなのに、どうして。

「私は…!」
「ねえ、るい」

奏汰は累の言葉を遮るようにして名前を呼んだ。それから優しく笑って自分の腕から解いた累の手を握る。

「るいは わるものに とらわれた かわいそうな おひめさまなんです」
「はあ?なに言って、」
「だから、だいじょうぶです」

大丈夫。その言葉に累はぎりりと歯を噛み締めた。何をしても話してくれないならもういい。

累は奏汰の手を振りほどいて、怒りと悔しさに身をまかせるままに走り出した。

奏汰はそれを引き止めようとしなかった。

「のどが かわきましたね」

奏汰は振りほどかれた手を胸の前で強く握りながら小さく呟いて目を閉じてうつむいた。
その顔は悲しみを移していた。



20170323
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