放課後になり薫はアイドル活動に精を出す…ということはせず、おしゃれなカフェで女の子とティータイムを楽しんでいた。
「ねえ、最近雰囲気変わった?かわいい」
薫は向かいに座る女の子に向かって頬笑む。
薫は女の子が大好きだった。
誰になんと言われようと女の子はかわいくて癒しだ。
今だって薫が誉めてあげた女の子は、
「ほんと?うれしいなあ…!あとで報告しないと!」
少しだけ頬を赤らめて笑う。
女の子って何てかわいいんだろうと薫は頭のなかで見た目だけが完璧な親友のことを思い出していた。言わずもがな、累のことである。一度騙された身ではあるが、あれはない。女の子と比べるのすら申し訳ないくらいだ。
しかし、薫は女の子の口から出た、報告と言う言葉がなぜかひっかかった。誉められたことを報告する…友人にだと思う。何らおかしいことはない。はずなのだが、なんだかよくない感じがした。
そのときは何もなかったが、薫のその第六感が感じたよくない感じはあながち間違いではなかったことが明かされる。
数日後、先日薫と一緒にいた女の子は校門前にて薫のことを待っていた。セキュリティ上中にはいることはできないので仕方がない。
と、その彼女のもとへ人影が近づいてきた。
彼女はその人影に気づくとぱあっと顔を明るくして駆け寄る。
「累くん〜!こないだ薫くんにめっちゃほめられたよ〜!」
なんと、近づいてきた影は累だった。
いつものように髪を下の方で二つに結い、女子制服をまとった累は、彼女と知り合いのようで楽しそうに話に花を咲かせ始める。なにも知らなければ女の子同士が盛り上がっているようにしか見えない。
「うんやっぱり化粧しなくてもあなたはかわいいわ」
「ありがとう〜!あのね、今度はね!」
「ちょ、ちょっとまって累なにやってんの???」
そこにやってきたのは女の子が待ちかねていた薫だった。
薫は二人が和気あいあいと話しているのを見て驚いている。
「あ、薫」
「薫くんおそ〜〜い!」
「ごめんごめんHRが長引いちゃって〜…じゃなくて!」
薫はぷうっと頬を膨らませた女の子に軽く謝るがそんなことより累と彼女が仲良く話しているのが気になって仕方ない。累にずいっと詰め寄りながらもう一度どういうこと!?と質問した。
「こないだナンパした」
あっけらかんと答えた累に女の子も否定をせず、累くんにナンパされちゃった〜〜!とはしゃぐ。
「はあ?どういうこと?」
「薫に酷いことされてないか心配なんだもの。何かあったらいつでもいいなさいねって連絡先を交換しただけ」
「でね〜〜!累くんお化粧とか超うまいからいろいろ相談のってもらってたの!」
「こないだの報告って累に報告ってこと!?」
これで全ての謎は解けた。薫の第六感が感じたいやな感じは彼女に累の息がかかっているということだった。誰が薫の友人の女の子と累が繋がっていると予想できるだろうか。
してやられたと片手で頭を押さえる薫。そんな薫にさらに衝撃的な事実が襲いかかる。
「つーか薫くん昔累くんのことナンパして遊ばれたってまじ?」
「まってそれはなしたの」
「さあ?」
そう累ははぐらかすが否定をしない辺り本当に話したのだろう。
「はあまじ勘弁してよ…」
「私は女の子の味方なのよ。薫が酷いことしたら私がお仕置きしてあげないと」
「きゃー累くんかっこいい!」
酷いことってなにもしないし…と項垂れる薫。場は累の独壇場と化していた。
女の子もふざけてだろうが累に抱きついてはしゃぐ。
だが、見た目はあれでも累は列記とした男である。さすがにそれはまずいでしょと薫は彼女を累から引き剥がそうとした。
しかし、それより先に累は動いた。
「ふふ、うれしいけれど。女の子が軽率に男に抱きつくんじゃないの。私だって男なのよ?」
ニヤリと笑って彼女のあごをすくう累。突然見せた累の男の姿に女の子は呆然とする。頬はみるみると赤くなっていった。
「ちょっとまってよ!この子はいまから俺と遊ぶの、ナンパしないで!」
薫はすぐに累と女の子の間に割って入った。
薫の背に女の子が隠れてしまうとすぐに累はいつもの雰囲気に戻り、あら失礼と、勝ち誇ったかのように笑う。
しかし、女の子は未だに衝撃から戻れずに呆けてしまっていた。
狩りをしていて目の前で獲物をさらわれた。まさにそんな感じで彼女の目には目の前にいる薫など1ミリも見えていなくて、累しか写っていない。
「累くんかっこいい…」
頬を両手で押さえて興奮した表情の彼女に少しやり過ぎたかと内心で舌を出していたのは累だけの秘密だ。
累しか眼中にない女の子を見て、アイドルとして悔しさを感じた薫だったが、累のギャップというのは男の薫でもドキッとしてしまう。
ドキッとしてしまった薫になにも言い返せることはない。
薫はいまの状況に、最悪とひとつ呟いてうなだれるしかなかった。
20170302