「いったいなんなわ…け………」

午前9時、母親に起こされて促されるまま居間の扉を開けた累は絶句した。

「どういうこと?」

目の前に並ぶ五奇人の姿。累の目は一瞬にして覚めた。
朝っぱらから人様の家に上がり込んでいるのもおかしいし、さらに寛いでいるというのもおかしい。累は頭を抱えたくなった。いったいなんなんだこいつらは。そう思わざるを得ない。
しかも5人はやたらとこちらを見てくる。じろじろと見られて累の機嫌は右肩下がりだ。

「おやおや累、珍しい格好ですね」

渉がにやにやした顔で笑う。
珍しい格好、というとパジャマだからだろうか。しかしそんなのは朝からアポなしで訪れてきた5人が悪い。

「るい、とってもせくしーです」

奏汰はふわふわと笑う。
セクシーと言われて累は自分の格好を確認した。ああ、なるほど、と思った。
大きくパジャマのボタンが空いている。堂々とさらされた胸は男のそれだった。そして今の累は寝起きだ。その意識はまだふわふわとしていて眠たげな目をしている。以上から今の累はとてつもない色気を放っていた。

『格好いい男の子ばかりでびっくりしちゃった。累ちゃん、食べられちゃわないようにしっかり自衛しないとダメよ!男だってとこ見せつけてきなさい!』

累の頭のなかに寝ぼけ眼で聞いた母親の声がリフレインした。つまりこれは母親の仕業なわけだ。
その当の母親は五奇人たちと入れ替わりに家を出ていってしまった。累はまた頭を抱えたくなった。

「累、早く着替えてこい。さっきから夏目がお前に見とれて戻ってこない」
「累ねえさ…ん、そんな、ダメだヨ…」

累のことを五奇人と同じように尊敬している夏目は累の色気に魅せられて顔を真っ赤にして宗にしがみついていた。いつも飄々としている夏目からは考えられない表情である。
それだけの破壊力が今の累にあった。

「零もようやく目が覚めたようですね」
「ここまでつれてくるのたいへんだったんですよ」

朝が苦手な零は無理矢理つれてこられたようだ。
先程までは何度もあくびをこぼしてた零だが現れた、おもちゃ、を見つけて目を輝かせている。

「誘ってんのかよ?」
「んなわけないから!!!」
「零はほんとに累のことが好きですねえ」

いつもの言い合いに渉は微笑ましいものを見るように笑う。それに思いきりむっとした累は腕を組んで高圧的な態度で、

「それで?朝っぱらから家に押し掛けてなんのよう?」

と聞くと、

「発端は奏汰だ」
「え〜わたるですよ〜」
「私のせいですか!?まあ言い出したのは私ですけどみんなの許可を得る前に零を連れ出したのは奏汰では?」
「俺は連れてこられただけだから知らねえ」
「誰だっていいけど理由を教えなさい理由を」

なかなか本題にたどりつかないことにため息をつきたくなる。

「まああれです、みんなで遊びに行こうと」
「ぷかぷか〜」
「まああらかたそんなことだと思ったけど…宗がいるのが意外なんだけど。人混みとか嫌いでしょ?休日だからどこも混んでるけど?」
「僕も半ば連れ出されたようなもんだからな」
「それにしてはボクが迎えに行ったときには準備ができてた気がするけどナ」

ようやく復活したらしい夏目がくすりと笑いながら言う。
零を迎えに行くのが渉と奏汰であったが、宗を迎えに行くのは夏目であった。もし宗が行かないと言っても夏目が少しお願いすれば動くのではないかという思惑も含めてだ。
しかしそれも必要なかったようで、事前に連絡をしてから迎えに行った夏目を出迎えたのは出掛ける準備の整った宗だった。なんだかんだ宗もこの6人でいることを不快だと思ってはいないようだ。

「ノンッ、黙れ小僧」

宗は眉間に皺を寄せながら自分から夏目を引き剥がす。復活したとはいえまだ累を直視できずにしがみついていたのだが…引き剥がされても仕方がないと言えよう。

「夏目、大丈夫なの?」
「見苦しいところを見せちゃったネ。あ、ダメそれ以上は近づかないでくれるかナ」
「…別にいいけど。夏目をからかうネタができたし」
「悪い子にはお仕置きが必要かな」
「…」
「ボクが悪かったから無言で近づかないで」

夏目はいつもの飄々とした態度を貫きたいらしいが、今の累を前に為すすべなしといったところだ。

「夏目かわいい」
「今の僕には何も言い返せなイ」

すっかり夏目をいじるのに夢中な累は側の驚異のことをすっかり忘れていた。

ふと零は立ちあがり累のもとへ足を伸ばす。それから後ろから羽交い締めにするように抱き締めて耳元でニヤリと笑う。

「いつまでその格好してんだよ、食われてえのか?」
「は?なに?欲情してんの?気持ちわるいんだけど」
「ほんとに可愛いげがねえな」
「あんたにだけだけど」

思いっきり振り払おうとした累だがそれより先に零の手ははだけたパジャマを掴んだ。



それからーーーー累のパジャマのボタンをすべて留めてしまった。

「おら、夏目のことからかってねえでさっさと準備しやがれ。せっかく朝から出向いて来てやってんだから待たせてんじゃね〜よ」

あっけにとられる累の背を押して居間から追い出す零。
パタンと閉まった扉の向こうで累がわけわかんないと叫ぶ声が聞こえた。

「大人げないですねえ」
「稚拙だ」
「れいはもうすこしすなおになりましょう」
「頑張れ零にいさん」

「うるせえ!!!!」

騒々しい一日はまだはじまったばかりである。



20170210
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