ぷーっと膨らませた奏汰の頬をつつく累はため息をついた。

「いい加減機嫌直しなさいよねえ、一緒にぷかぷかしてるじゃない」
「あし だけじゃ みずあびとは いえません」

噴水に沈む奏汰はむっとする。
そんな奏汰にため息を尽きながら、累は足を使ってぱしゃりと奏汰に水をかけた。



放課後に久しぶりに会った奏汰はにこにこと笑顔を貼り付けて、累にチョコレートを押し付けながら、

「さかなは みずをあげないと しんでしまうんですよ」

とのたまった。
もちろん累が甘いものが嫌いなことを奏汰は知っている。知った上で渡したのはチョコレートの中でも一際甘いホワイトチョコレート。
累は奏汰が遠回しに構えと言っていることに気付いてため息をついた。

そして仕方なしに水浴びに付き合っていたのだった。
と、言ってもかなたのように全身水に浸かるのは嫌なので、噴水の淵に腰掛け、足だけ水につかっている。
しかしそれでは奏汰は満足しないようでさっきからぷんぷんと擬音が聞こえそうなほど顕著に顔に出していた。

「るい〜」
「そんな悲しい顔してもほだされないから」
「む〜 きょうのるいは つめたいです」

えいっと腹いせに累に水をかけた。

それにしても暑い。季節は夏。いくら水場にいると行っても照り付ける日差しはごまかせなかった。日傘があれば良かったのだが、今の累はあいにく所持していない。いつもは鞄に入っているのだが、今日はなかった。いや、今後も戻ってくる保証はない。
実は累の日傘は今、零の元にあった。と、いうのも先日また日射しで死にかけた零を見かけた際に、面白半分で自分の持っていたピンクと白の日傘を持たせたのだ。もちろん、似合うわけもなく、累は思いっきり笑った。それに腹をたてた零はそのまま日傘を持っていってしまったのだ。まあ、そのときの累は、本当に必要な人が持っていた方がいいだろうとそのまま見送ってしまったのだが、今さらになってそのときのことを後悔した。

そろそろ帰ってもいいかしらと奏汰にうんざりしながら空を見上げた累。
雲ひとつなく、ギラギラと照りつける太陽が憎らしい。
しかし遠くの空に暗い雲を見つけた。それはどんどん近づいてくる。

「いやな雲…」
「さっきまで はれていたのに ふしぎですね」
「天気予報も晴れだったはず」

雨雲はなくなるどころか増えて行く。
ついにはぽたりと地面を濡らし始めた。一つ落ちるとそれを皮切りに落ちてくる雫。

「うそ、夕立?奏汰、早く中にはいるわよ!」

ついには本降りになってしまう雨に累は奏汰を噴水から引っ張り出して校舎へと急ぐのだった。



荷物を置いていた海洋生物部の部室についた累は全身ずぶ濡れだった。雨が降りだしてすぐに校舎に入ったが、予想以上に雨は強く、水浴びをした奏汰と対して変わらないぐらい濡れてしまった。

「こんなことなら るいも みずあびすればよかったのに」
「しつこいわよ」

恨めしそうな目で見る奏汰を軽くあしらいながら累は着替えを手にした。
手慣れている累は手早く着替え、それから空いている椅子に座り、髪をほどいてタオルで水気を拭き取って行く。

そんな累の後ろに影が射す。
その影は奏汰が作ったもので、奏汰は累がブラシで髪をすいているのにも構わず、その腕の上から自分の腕を回して抱き締めた。

「かなた?」
「できることなら このままこのへやに とじこめてしまいたくなります」


いつもより低いトーンの奏汰の声が響く。


二人の動きが止まり、静かになった部屋には外の雨の音がよく聞こえた。


そんな空気を打ち破ったのは累の声だ。

「悪い魔法使いから助けてくれる騎士は誰かしら」
「れいはどうですか?」
「やめてよね」

首だけ振り返った累の顔には不満だと書いてある。それを見て奏汰は面白そうに笑った。


「ほんと、奏汰の冗談は冗談に聞こえないから怖いわ」

はたから見るとそうには聞こえなかったのだがどうやら先ほどの奏汰の言葉は冗談だったらしい。それにしてはやけに声色が冷たかった気がする。

「えへへ、ごめんなさい」
「ほら、離れなさい。せっかく着替えたのに濡れたあんたがだきついたら意味ないじゃない」

ぽんぽんと累が奏汰の腕を叩くとあっさりと離れて行く。案外本当に冗談だったのかもしれない。

「練習着かなにかあるでしょう?早く着替えて来なさいそしたら髪を拭いてあげるから」
「は〜い」

真意を知っているのは奏汰だけである。



20161219
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