誰が見ても「美しい」と言うほど彼女は美しくなった。
出会った頃のような幼さも荒々しかった仕草も、今はまるで見あたらない。
淑やかに艶やかに、今俺の目に映る彼女は笑った。


「今日は来てくれてありがとう、ゆっくり楽しんでいってくれ」

目の前にやってきたカガリは軽く会釈をすると、あの頃と変わらない口調で話しかけてきた。
カガリ・ユラ・アスハの20歳バースデーパーティーはたくさんの政界人や著名人でごった返している。
悠然とした立ち振る舞いで受け答えするその姿は、知らない女性のよう。
知らなかった、彼女があんな風に笑うなんて。歩くなんて。話すなんて。
2年という月日は大きすぎたのだろうか、戦後彼女にあった回数など数えられる程度だった。
市長として休む間もなく働く彼女のそばに、俺はいてあげられなかった。
会う度に大人びていく彼女を見るのは正直辛く、いつになったらあの頃の約束は果たすことが出来るのだろうと考えた。
俺が守る。どこかのラブストーリーで語られそうな甘い言葉も、今思えば若気の至りに過ぎなかったのかも知れない。
自分には想像もつかないほどに大きなものを守っている彼女に、どこの口が守るなどと言えたのだろうか。
思い出す度に恥を知った、無力な俺に、彼女を守ることなど出来ないと。

「アスラン」

聞き慣れた声にはっとして振り向く。
そこに立つ真っ黒なドレスを着た彼女は「ちょっと」と口で象り俺を導いた。
すれ違う人ごとに会釈を交わし、ときどき俺の方を見ながら歩く彼女に着いていくと人混みから離れた奥のテラスに出た。
涼しい夜風が吹き彼女の髪を揺らす。すごく伸びた、金糸のような髪。

「わるいな、呼び出して」
「いや、ちょうどよかったよ」

俺の言葉に不思議そうに首をかしげる彼女に「人の多いところは苦手なんだ」と説明するとカガリはふわりと笑った。
カガリらしい笑顔だった、見るのは、とても久しぶりだった。

「カガリ」
「ん?」

月を眺めていたその目を俺に向けて真っ直ぐに見つめられる。鼓動が高鳴るのはいつ以来だろう。
今この空間にいるのがまるでふたりだけのような気がした。おそらく、彼女も。

「会いたかった」

本当はもっと言いたいことがあるのに、ほんのわずかすら伝えられないような言葉。でも、心から思っていた言葉。
一瞬目を見開いた彼女を見逃さず、その隙を突いて腕の中に閉じこめた。
幾分か細くなった気がする、それでいて柔らかく、焦がれたこの香り。

「ア、スラン」
「本当に、会いたかったんだ」

ずっとこうしたかったんだ。
確かめるように視線を合わせて何の違和感もなく唇が重なる。
一層に抱きしめる腕を強める、誰かに見られていようとも構わなかった。

「アスラン、ごめんな。ごめ」
「何も言うな。今は、何も」

彼女の瞳から溢れてしまいそうな雫を舌で拭い再び口づける。
今はどんな言葉もいらない。ただ、君が、カガリが欲しい。
そんな気障な言葉すら言えるほど熱に浮かされた時間だった。
夜が明けて、隣に君のぬくもりが無くても大丈夫なように、今はその熱を俺に。



確かな熱で目覚める朝に、僕らは辿り着けるだろうか。


2010.09.04


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