静かなソプラノの声。楽しそうに跳ねる髪。ころころと変わる表情。僕とはあまりに正反対の場所にいる彼女は、自ら僕のいる場所へと足を踏み入れてきた。日の当たらない場所にいた僕を照らす、太陽のように。


「やあ!」
「また君か」
「また私で悪かったわね」

挨拶代わりで向ける僕の皮肉をいつも彼女は真っ正面で受け止める。頬を少し膨らませながら持っていたコンビニ袋の中身を冷蔵庫に詰め始めた。今じゃその光景も慣れたものだ。

「期間限定のキャラメルプリン、いれておくね!」

弾む声で話すその言葉に返事をしたりはしないが、まるで彼女はわかっているようでなにも言わない。ただにこにこと楽しそうに笑うだけだった。

「・・・で?今日はなんのトラブルだ?」
「失礼ね!今日は何のトラブルもないわよ!」
「・・・明日は雹が降るな」
「なにそれ!」

きつく目をつり上げるその様はちっとも怖くはなく、強いて言えば幼子のよう。彼女の仕草や表情はどこか幼さを残している。あどけなく無邪気で、真っ直ぐで、汚いものなんて知らないような目。そんな目が僕を見つめるたびに、呼吸が乱れて苦しくなる。

「そのままの意味だ」
「・・・もう、可愛くないなあ」
「君に可愛いなどとは思われたくない」
「っほんとに可愛くない!」

誤魔化し程度に言葉を濁せば、餌にありつく魚のようにまんまと彼女は騙される。それが今の僕を助けているけど、いつかこんな誤魔化しの言葉なんて意味がなくなるほどに彼女が大人になってしまったら、そのとき僕はちゃんと彼女の目を見て話せるだろうか。言葉を見付けられるだろうか。そんな不安がふとよぎっては、泡のように消えていく。僕にとって彼女は、あたたかくやわらかく、やさしくつよく、ただ守りたいと思う存在。そんな存在、今まで在りはしなかった。必要なかった。だから、どうしたらこの守りたい存在を自分の力で守れるのか、必死になって考える自分がいる。ここで息をして、彼女を想いながら生きている。

「そんな八雲くんにはこのキャラメルプリンあげないからねーだ!」
「・・・別に、いい」
「またまた〜、そんな困ったような顔して〜」
「困ってなんかない」

相変わらず楽しそうに笑う彼女。意地悪っぽい目。
僕の何もかもを、彼女はあたたかく包む。見透かされているのにちっとも不快ではなくて、むしろわかってくれることが嬉しい。こんな僕に彼女は笑顔を向けてくれる。そんな日常的なことが、今ではひどくひどく愛しいと思える。

「そんなに心配しなくてもちゃ〜んととっておくから!」
「勝手に僕の心情を決めるな、僕は別に」
「はいはい、わかったわかった」
「・・・・・・」

なおも笑う彼女に、最近僕は敵わない気がしてきた。しぶしぶ白旗を揚げれば彼女がより一層笑うから、その笑顔を見られるならまあいいかと思う僕がいる今日この頃。






2011.01.13


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