正解がわからない。ただわかっていることは、間違いだらけだということだ。
そうだとわかっていながら、正すこともなく日々は過ぎ、今日もまた、あの人は俺に触れる。
一度手放したはずの熱が疼く。この傷だらけのまま肥大した思いはきっと、なんの薬にもならない。なんの正解も生み出さない。わかっているのに。
なのにどうして、俺はこの手を拒めないのか。
「律」
昔のように名前を呼ぶ、少し低く掠れた声で。
キスはタバコとコーヒーで苦くなった。
触れる手も、節くれが目立つようになった。
体を這う指が手馴れている。昔はもっと、たどたどしかった。
昔はしなかったことを平気でするようになった。
口を開けられるようになったと笑われた。
笑われたあとに、いつからそうなったのかと問いただされた。
変わったことの方がきっと多い。きっと俺も、この人から見たらたくさん変わっただろう。
それでも、この胸の苦しさも痛みは、あの頃となんら変わりない。
むしろあの頃より厄介なくらいで、この人に触れられて思い出すものは全部、全部、本当に厄介で。
悔しくて悔しくて、情けなくて、どうしようもなくて、涙が出た。
「なんで泣くんだよ」
「うるさい、泣いてない」
結局俺は進歩がない。
ただどうしようもなく、馬鹿みたいに、この人に惹かれてしまう。
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