「涯、とって」
いのりの声はいつもと変わらない。表情も変わらない。ただ俺を見つめて催促する。
「はやく、血、とって」
白い腕を差し出して同じ表情でまた。それを連想させる赤い瞳で俺を見る。少し霞んだ視界で鮮やかにその存在を知らしめようとする。
「今は、いい」
俺の声にもいのりの表情は一切変わらず、何も言わずにさらに腕を差し出した。
「射して、はやく血をとって」
「いい」
「涯」
いのりの冷たい指先が俺の傷に触れた。走る痛みに思わず顔の筋肉が強ばる。流れ出る血をいのりは見つめていて、赤い瞳がそれに浸透してゆく様だった。
「足りなくなったら補うの、空っぽになってしまわないように」
「……」
「空っぽだった私を埋めてくれた涯、何も、躊躇わないで」
「いのり」
再び向けられた瞳はほんの少し柔らかく光って、まるでその言葉を待っているかのようだった。何もかも見透かしているようだった。
「わかった」
そう告げるといのりが微かに笑った気がした。
「うん」
そんなことで笑うお前を、俺は手離せなくてどうしようもない。ブラッドバラッド
2012.01.09
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