幸せそうに笑いながら目の前の少女は静かに寝息をたてる。風に吹かれ金糸のような髪が揺れるたび、そこから甘い彼女特有の香りがした。
「ルーシィ」
名前を呼んでも起きる気配は全くなかった。思わずこぼれた溜め息と笑みはせめてもの強がりだった。彼女の顔の横に手を着く。邪魔なサングラスを取ることは忘れない。静かにその距離を縮めるほどに軋むスプリング。浮かされてしまいそうな熱が彼女の唇に押し当てられると、安心さえ感じた。
「……ん」
ぴったりと合わさった唇から声が漏れた。わずかな震動が妙に気持ち良くて勢いで舌を差し入れる。するとさっきより大きくなった声が聞こえた。
「ロ、」
「黙って」
僕の名を紡ごうとする唇を無理に塞ぎ込みキスに没頭する。僕がこんな風に思うように、彼女にも思ってもらいたい。溢れる熱を、想いを、この柔らかく滑らかな肢体に注ぎ込んで。そして。
「ルーシィ、ルーシィ」
「ん、ロキ」
馬鹿みたいに名を呼ぶ僕に優しく絡み付く細い腕。それだけで、ただそれだけで。幸せだと思う。人間と星霊の間に目覚める愛が一層に輝く気がして。君に、僕を残せている気がして。
余裕も強がりも理性も何もないふたりだけの世界で、僕らは呼吸しながら愛し合うんだ。運命を埋め尽くすように。
歯止めが利かないんじゃなくて、利かせるつもりがない愛なんだ。
2010.09.09
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