数学の授業は嫌いだから大体サボる。それは今日も例外ではなく、いつものように屋上で寝転がっていると急に人の気配がした(顔に影が落ちてきた感じ)。誰だよ、また女?と仕方なく目を開けばそこには確かに女がいたんだけど、真っ白い肌と蒼い目と奇抜なピンク色の髪があったもんだから俺は思わず両目を見開いた。
「うおっ」
「サボりだなんて良いご身分アルナ」
そう毒突きながら俺を見つめるのはクラスメイトのチャイナ。いつもと雰囲気が違う気がする、のは、眼鏡が無い所為だろうか。
「眼鏡・・・」
「ん?・・・ああ、壊れたアル」
「なーしに」
「なんでも」
内心胸がドキドキと高鳴っていて、ちゃんと普通に話せているだろうかと焦っている。どうやらそれはちゃんとできているようでチャイナの反応はいつもどおりだった。でも、眼鏡がないコイツにまじまじと見られると、マジやばい。
「てかテメェもサボりだろ、良いご身分だねィ」
「ふん、私はもともと良いご身分アル。お前と一緒にするな」
「げえ、どこらへんが」
「気品と品格」
「お前意味わかってねーで使ってるだろィ」
むくり、と上体を起こしながら他愛のない会話を交わす。腰の骨を少し鳴らすとチャイナは「おお」とどうでもいい歓声をあげた。てかほんと、眼鏡無し勘弁。
「?なにヨ、そんなにジロジロ」
「べ、つに」
見つめすぎたのかふいにチャイナと視線がぶつかって、心拍数が殊更上がった。そんな俺の気など知るわけがないチャイナは大きなくりくりとした蒼い目をこちらに向け不思議そうに見つめてくる。(だからかんべんんんんっ!)
「んわっ」
堪えきれなくなってチャイナの目を俺の掌で覆った。色気のない声をあげたチャイナと言えば猛烈に抵抗してくる。コイツの身体能力は半端じゃないが、それでも男の俺に抑えられないほどのものではない。
「へっ、とれねーのかィ?」
「んごーっ!離すアル!」
「嫌だねィ、俺の内なるSが離すなと言っている」
「お前は全面ドSダロー!」
細い両手で俺の右手(覆っている方の手)を掴みながら必死に剥がそうとするその様は、ほんとSの俺には燻られるものがある。だが目立つ目が見えないと他のパーツがよく見えるもんで、小さくて筋の通った鼻とか、薄い桜色の唇とか、滑らかそうな頬とか。そのうち首とか鎖骨とか脚とか、キリがないほどにチャイナの身体を見つめた。
「・・・」
「離すアルーッ!おい・・・?」
「うまそう」
思わず溢れてしまった声にほんの少しだけ後悔をするが、チャイナの呆けた反応を見ていたらやっぱり悪戯したくなって(ドS上等)、目を覆ったまま空いた方の手でチャイナの身体をなぞり始めた。
「っひゃ」
途端にらしくもない声を上げたチャイナは身体を大きく跳ねさせ、俺から一歩退いた。そんな反応を見せられると余計にもっともっと、をしたくなるのに。暴れていた両手も急な出来事に驚いたのか大人しくなり、弱々しく目を覆う俺の手を掴んだ。
「・・・なに、無意識?」
「は、なに、が」
「・・・勘弁」
細くて白い指先に俺の身体は少しばかり敏感だった。やっと事の自体を理解したのかチャイナはまた「離せ!」とか「なにするアル!」とか叫んできたけど、もういろいろと聞こえなくなっていた。
「あうっ」
「いただき、」
目が見えないことをいいことに、チャイナの首筋にちゅっと唇を寄せた。その喉からは可愛い声が漏れて、俺をたまらなくする。ばたばたと暴れるがそんな抵抗すら可愛い、そんな風に思う。
「なァ、もっと、触らして」
「っ!何、言ってるアルカ!・・やっ」
もうチャイナの何もかもが可愛くなって身体をなぞっていた手を制服の中へと忍ばせた。瞬間その身体は大きく抵抗したが、女特有のふくらみをやんわりと揉めばそんなものもなくなり、苦しそうに呼吸をするだけだった。
「っ、ん」
「気持ちいいかィ?なあ、かぐ、ら」
「!」
はじめて、本人の目の前で名前を呼ぶ。その名前がずっと好きで、その名前を持つそいつがずっと好きで、でも、言えなくて。けどいまなら。
「神楽」
「あ、や、そ・・・うご」
夢中になって胸をまさぐっていると急に俺の名を呼ぶ声が聞こえて、どうしようもなく幸せになった。名前を呼ばれただけなのに、そう思いはしてもそれが当たり前のように感じた。それほどに、コイツが、好きだった。
「全部くれ、俺に」
「・・・今日なんの日か知ってて言ってんのかヨ」
「あたりまえ、」
「・・・むかつく」
知ってる、今日がチャイナの誕生日だってことぐらい。ほんとは、いつどう切り出そうか悩んでいた(ヘタレとか言うんじゃねェ)、それが、こんな良いチャンスに恵まれるとは。
「だから今日は、俺の愛をあげますぜィ」
「拒否権は」
「プレゼントをもらうのに拒否だなんて・・・まさかそんなことしませんよねィ?」
「・・・新手の訪問販売みたいアル」
口では可愛くないことを言うチャイナだけど、そんなんも全部、俺は好きなんだよ。そう言ってしまえたならこの素直じゃないお嬢さんは今すぐ俺に抱きつくのだろうけど、でも。
「受け取ってよ、かぐらさん」
「・・・仕方ないアル、」
受け取ってやるヨ、と小さく小さく呟いたその声が本当に愛しかった。珍しくデレた。そして、トドメかと思わせるようなセリフを、俺に投げつけてきやがったもんで。
「総悟の全部を私にちょうだい」
あっけなく理性は砕けたのでした。
2010.11.03
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