「誕生日おめでとう」

やさしい、それでいて企んでいるような笑顔がドアを開けるなり私を出迎えた。ありきたりなドラマで見たことがありそうな真っ赤な薔薇の花束を私に差し出しながら。気障っぽくて以前の私なら腹を抱えて笑っていただろうに、今は沸き上がる恥ずかしさと嬉しさで顔が緩んでしまった。愛しい彼からの誕生日プレゼントは、いったいこれでいくつになるだろうか。

「ありがとう、アスラン」

受け取って礼を言うとアスランは「どういたしまして」と嬉しそうに笑った。

「おいで」

アスランが差し出す手を取ってリビングへと向かう。ドアを開け広がったのは、普段とは少し違う雰囲気の我が家。シックな装飾にライト、テーブルには私の大好きな料理ばかりが並べられ、真ん中には初めて見る青い薔薇。アスランのセンスは本当に抜群だと思う。思わず感嘆する私に「気に入った?」と愉しげに聞く。

「うん、素敵だ」
「そうか、よかった」

ほっとしたように微笑む彼にもう一度ありがとうと告げると、自然とキスをされた。

「あんまり嬉しくさせるなよ、祝う時間がなくなる」
「はは、なんだそれ」
「そのままだよ」

そう言いながら再びキスをするアスランが可笑しかった。でも、あまりにやさしいキスに嬉しさと愛しさが募る。だから素直に首に腕を回したらアスランの息があがって、次の瞬間には舌まで絡めとられた。

「ふ、……んぅ」
「だから、煽るなと」

合間に紡がれる声にはなんだか余裕が無さそうで不思議に思う。ああ、そうか。ふたりきりでこんな風に過ごすのはすごく久しぶりだったっけ。お互い仕事で会える時間が少なかった。どちらかが出張だったり帰る時間が合わなかったり。顔を合わせていても触れ合う時間まではなかった。いつも余裕綽々な彼を知っているせいか、こういうのは新鮮だった。深く求める彼にこたえる。どうやら私も、かなりぬくもりを求めているようだった。しばらくして唇を離し見つめ合った。大好きな翡翠の目が熱に揺れて色っぽい。アスランのこんな目を見るたびに私はいつも泣きたくなった。ただ、幸せで。

「…止まらなくなる」
「いいよ、止めないで」

やさしく頬を撫でながら困ったように告げる彼に私はこたえる。
はやく、はやく触れたかった、触れてほしかった。本当は、どんなプレゼントよりもアスランとの時間が欲しかったんだ。
熱に浮かされた言葉は声になって、静まり返ったふたりだけの部屋に響いた。

「ほんと、敵わないよ」

苦笑いしたやさしい彼の顔を見て、私はその夜5度目になる彼との誕生日を過ごした。それはとても甘くて激しい、恋人達の時間。


この先もずっと、毎日がこんな幸せに満ち足りていることを。


2010.09.02


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