彼女の柔らかさを求めて、この身体は枯渇寸前。


「は、っん」
「千鶴、」

彼女の身体を照らすのは襖越しの月明かり、ただそれだけ。にもかかわらす真白く艶めかしくその小さな身体が俺の目に映った。
切ない声で甘いと息とともに俺の名を呼ばれるだけでどうにかなってしまいそうだった。

「としぞ・・・さ」

快楽と羞恥で潤んだその目は否応なしに俺を煽り、攻め立て、焦がす。白い太ももを撫で回すと、千鶴は涙を流しながら首を横に振った。その仕草がまた俺を煽るというのに、いつまで経っても彼女はそのことに気付かない。夜着をはだけさせ、申し分程度に腕に引っかかっていたものもすべて取り払い、彼女の身体を覆うすべてを無くした。ほんのりと紅く染まった肌に、ひとつ、ふたつと口付けを落とす。

「お前は、俺のもんだ」

何度も何度もそう言いながら、彼女の身体の至る所に散らせ、眺め、言いようのない優越感に浸るのだ。弱々しく手を伸ばす彼女のそれをきつく握り布団に縫い止める。濡れた唇にも口付けを落とせば、彼女は安心したようにそれを受け入れた。舌を絡め、どちらのものかわからない唾液を呑み込む。そんな口付けを夢中になって繰り返す。鼻から抜けるような彼女の声がときどき俺の耳を掠めた。

「歳三さん、歳三さ、んっ」
「誘ってんのかよ、」
「ちが、いますっ」
「・・・どうだか」

そう言いながら彼女の下肢に手を伸ばせばそこはしっとりと湿っていて、思わず口角が上がってしまう。指に絡まるその蜜の音を聞かせるようにわざとらしく指を動かせば、千鶴は身体を跳ね上がらせ声を上げた。

「っあ、やあ!」
「嫌じゃなくて」

その官能的な眼差しで俺を見つめる千鶴に、告げる。彼女が弱いらしい、俺の低い声で。

「いい、だろ?」
「・・・!」

大きく見開いたその目からは相変わらず涙がこぼれていて綺麗だと思った。その涙を舌でなめ取り、そのまま唇へと触れる。重ね合わせた手の、握り合う強さが強まる。俺の中の熱が、千鶴を求めて暴れ回る。いくらか彼女の反応を楽しんだあと、情けなくも堪えられなくなった自身を濡れたそこに宛がい、割れ目に沿って擦りつけた。

「っあ!・・・ぁう」
「なあ、俺が、欲しいか」

彼女の耳元で、低い声を響かせながらそう問いかける。震えるその身体の熱の発端が、俺の熱にも移ろうとしている。本当はもう、待ってなんかいられないくらい。でも、それでもなんとか堪えてその言葉を欲するのは確認したいからなのだ。彼女も自分と同じように、自分を求めていると。

「あ、あっ」
「なあ、千鶴」

言えよ。そう言いながら更に腰をすり寄せれば、いよいよ堪えきれなくなった千鶴はその熟れた唇を開いた。

「ほ、しい。・・・歳三さっ、が」

その言葉を耳にした途端、何かが切れたような音がした。忠告もなしに一気に彼女の中心を貫きその際奥を打った。

「っああ!、あっ、やっ」
「・・・っ、は」

狂ったように腰を振り、彼女の身体を揺さぶり、擦り込ませるように内壁を刺激すれば、その唇からは止めどなく嬌声が漏れて聴覚からも俺を刺激した。きつくて熱い体内は、何度も何度も俺を絶頂へ追いやろうとする。

「ちづ、・・・る」
「もう、っだ、め、歳三さんっ」
「っ千鶴」

そしてその熱い熱い中に、熱い熱い熱を放った。


*


目を開けば眩い光が突き刺さって思わず瞑ってしまった。もう朝だ。身体を起こそうとするけれど、驚くほどにあちらこちらが痛かった。

「うう、歳三さんの、ばか」

そう隣で眠る彼に愚痴を零すけれど、相も変わらず美しい寝顔のままだった。特に痛む腰をさすりながら布団の外で散らばっていた夜着に手を伸ばす。だけどなかなか届かなくて彼を起こさぬよう静かに布団を出ようとした。その瞬間、後ろからものすごい勢いで腰をつかまれ、思い切り引っ張られた。

「きゃあっ!」
「・・・どこいくんだよ」

寝起きの低い声が、私は苦手だった。というよりは、弱かった。逞しい腕に捕らわれてしまってはもうどうにもならないことをすでに学習している。だがどうやら私は相当の馬鹿みたいで、いつだってその腕から逃れようと身体を必死に動かす。

「暴れんな」
「じゃ、じゃあ離してください!」
「だからどこいくんだよって聞いてんだろ」
「朝ご飯を作りにいくんです!」

後ろから抱きしめられたのでは睨み付けることも出来ない。真面目に彼の質問に答えたというのに、彼はその腕を解くどころか私の首筋に顔を埋めてきた。

「やっ」
「・・・んな声だしてんじゃねえよ。まだ、ここにいろ」
「だ、から、朝ご飯が!」
「んなもんまだいい、だから、まだここにいろ」
「・・・もう」

ときどき、ごく稀に、彼はこんなふうに甘えてくる。それは私にとってこの上なく幸せなことで、そんな彼を突き放す事なんてどう頑張っても出来ないことだった。そんなわたしの内情を知っているのか知らないのか、彼は埋めていた顔を少し上げて私の首筋を舐めた。

「んん、」
「千鶴、あいしてる」

そうして愛を囁いた。瞬間、私は泣きそうになってしまう。彼の声はいつだって意地悪で、やさしくて、あたたかい。私を抱きしめるその腕に自分の手を重ね、答えるように伝わるように私も言う。

「わたしも、あなたを、歳三さんを、あいしています」
「ああ、知ってる」

そんな彼の台詞に思わず笑ってしまった。彼からも小さく笑う声が聞こえたような気がして、その腕の中で身体を反転させると。
私の大好きな笑みと、目の輝きと、泣きたくなるような幸せを纏った彼が見えて、視界が少しだけ霞んだ。


私を待っているのはいつだって
(ただひたすらな幸せだけ)


2010.12.23


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