「抵抗しないの?」

僕に組み敷かれる君は想像以上に小さな存在だった。少し力を入れれば本当に折れてしまいそうな細い身体、でもそんなか弱さとは対照的に強く固い眼差しを僕に向ける君が気にくわなかった。

「抵抗したら、沖田さんは私を離してくれますか」

その凛とした声も、気にくわない。掴んでいた手首を強く握っても、君は眉ひとつ動かさなかった。

「・・・どうだろう、君次第だね」
「なら、しません」

僕を断ち切るかのような鋭い声が、言葉が、真っ直ぐすぎる目が。全身を振るわせるほどの威厳をもって僕に突きつけられる。手首、痛いでしょ?言葉が思いつかなくてそんな的の外れたことを言ってみたけど、彼女はやっぱり「痛いです」と発するだけで屈したり表情を歪めたりはしなかった。

「君は馬鹿だ」
「知ってます」
「大馬鹿だよ」
「知ってます」

そんな君を、大切だなんて思う僕はもっともっと馬鹿だ。こんなに痛めつけても君は僕を否定しない。どうして、離れてくれないの。僕からはとても離れてあげられないから、だから君が僕から離れてくれなきゃ困るんだ。一緒にいてもいなくても、この胸は引き千切られそうなほどに苦しくなる。君を想えば想うほど、僕は死ぬのが怖くなる。君といると僕は、弱くなる。

「お願いだから、僕を否定して」
「できません」
「どうして」
「私に沖田さんを否定して欲しいなら、沖田さんが私を否定して下さい」

そうしたら私は、あなたを否定します。
なんて、なんて残酷なんだろう君は。そんなこと、もう僕にはできないのに。自分から手放す勇気さえなくしてしまった、君が欲しくてたまらない。この気持ちをすべて君に吐き出せばいいと言うの?

「どうすれば否定できるかわからないよ」
「私だって、わかりません」
「・・・もう、君も頑固だなあ」
「沖田さんには言われたくありません」
「、敵わないよ」

いいさ、僕の負けだ。そう言うと君はようやく表情を和らげた。いつもの、春風のように柔らかな表情だった。重力に従って君の身体に隙間なくのしかかると、君は「重いですっ」と君らしい声を上げた。

「あーあ、死ねないなあ、僕」
「そうですよ、絶対に死んじゃだめです」
「君に言われると、なんだか死ぬ気で生きなきゃだめだなって思うよ」
「なんですかそれ」

不思議そうに眉を寄せたその顔が目の前に見える頃、僕らの唇は重なった。出会った頃から変わらず細い腰を抱いて後頭部に手を回して、窒息するような口付けを。僕の首に腕をまわす君が、必死に舌を差し出す君が、呼吸で肌を撫でる君が。僕を否定できないと心の中で泣く君が、もうどうしようもなく好きなんだ。

「ん・・・はっ」
「千鶴、ごめん、好きだよ」
「っ、総司、さん」
「ごめん、ごめん好きだ」

涙はとうの昔に枯れたようで、それでも僕の心は泣いていた。君が僕を否定できなくて泣くように、僕も君を否定できなくて泣いているんだと思った。


君からの拒絶が欲しい
でも君は意地悪だ



2011.03.04(2011.07.23 改変)


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