※SSL


剣道部に可愛いマネージャーが入ったという。1コ下の平助が言ってた、鼻の下のばしながら(あんなんだから彼女出来ないんじゃない?)。一応剣道部員だから確認にだけ行ったんだ。そうしたら、さ。まあ確かに可愛い子がいたわけだよ。可愛いんだけどそれだけじゃなかった。多分、今思うと一目惚れだったのかも。



「最近総司のやつ、部活出るようになったよな」
「出るといってもほとんど雪村をからかっているだけだろう」
「まあ、確かにな〜」


竹刀を振るう総司を見ながら平助と一は話す。近藤が理事長になってからめっきり部に顔を出さなくなった総司だったが、新しくマネージャーが入ってからはほぼ毎日部活に来るようになった。真剣に竹刀を振るう様はその実力を物語っており、全国レベルの腕前は劣ってはいなかった。


「なんで真面目に部活も出ていなかったような奴があんなにいい腕してんだろな〜」
「あいつは筋がいいからな」
「ったく一くんは悔しくないのかよ〜」
「あいつに負けた記憶などないな」


勝った記憶もないが、と付け足すのは一くんらしいと平助は笑う。ややあって再び総司に目を戻すとちょうど新人マネージャーの千鶴からタオルをもらっていた。親しげに話す様子からは、普段の鬼畜な総司など隙間も見えない。


「君も汗かいてるよ」
「えっ、ああ!結構走り回っているので!ごめんなさい、汗臭い……ですよね」


ふわり、と総司は千鶴にタオルをかける。千鶴が目を大きく見開いたから説明すると、恥ずかしそうに俯いた。


「全然?……いい匂い」


俯く千鶴の耳元でわざとらしく囁くと、千鶴は小さく悲鳴をあげ慌てて総司から離れた。


「なに?逃げるなんてひどいなあ」
「あ、に、逃げてはいな…い、です」
「じゃあなに?」


怪しい笑顔でジリジリと千鶴に歩み寄る総司。比例するように千鶴も退いていく。


「逃げてるんじゃなくて!ち、近いから少し離れ…ようかと…」


しどろもどろになりながら話す千鶴をついに壁まで追い詰めると、総司は千鶴に顔を体を、触れてしまう寸前までに近づけた。周りの視線が集まっていることより、今目の前に総司がいることのほうがよっぽど恥ずかしい。目線をどこに置けばいいのかすらわからず泳がせる千鶴。総司がしばらくそんな千鶴を見つめていると、呆れたような声がたしなめるように響いた。


「おい総司、いい加減にしろ」
「ちぇ、また一くんかあ」


お手上げ、と言わんばかりに総司は千鶴から離れる。赤くなった千鶴に「大丈夫か」と話し掛ける一の横を通り過ぎ、道場を出ていった。


「…あ」
「気にするな、戻ってくる」


小さく返事をする千鶴の顔はどこか寂しそうで。一の胸が微かに、でも確実に締め付けられた。



道場を出てひとり木陰に座ると、自然とため息が漏れた。こんなに重たいため息をつくのはいつ以来だろう。そんな風に考えながら瞼をおろすと、先程の千鶴の顔ばかりが思い出される。胸が苦しい、熱い。


「はは、僕らしく、ないなあ」


自嘲気味に零れた声。熱くなるばかりの想いをどうやったら鎮められるのか、彼はまだ知らない。


ねえ教えて、
僕は君を知りたい。





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