「ねえ、いい加減素直になりなよ」
「す、素直も何も!沖田さんが私をからかってるだけじゃないですか!」
「やだなあ、可愛がってるんだよ」
「嘘です!」
その断言の自信は一体どこからくるのか。後ろから抱き締めて「好きだよ」と言ってくる総司に千鶴は真っ赤になることしか出来ない。もがいたところで無駄以外の何物でもってなかった。
「嘘だなんてひどいこと言うね千鶴ちゃん」
「だ、だって……」
「だって……なに?」
覗き込むように顔を近付けると千鶴は「近いです!」と言って逃げようとした。当然のことながら逃れられはしない。
「言わないとこのまま口付けるよ」
痺れるような脅しに千鶴は観念して口を開く。
「沖田さんはかっこいいし女性の方にも人気だし、そんな方が私みたいな子ども好きだなんて……信じられません、」
必死で隠しているつもりなのかもしれないが、千鶴の声は頼りなく、今にも泣き出しそうなほどに震えていた。もっと深く顔を覗き込もうとしたら顔を逸らされた。そんな行動が、総司にはかえって火元になる。
「…!んんっ」
後ろから抱き締めたまま千鶴の顎を掴み無理矢理自分の方へと向け…。口付けた。深く、深く。教えるように、噛みつくように、伝わるように。
抵抗しようとするわずかな力すら愛おしかった。
「……僕は、君にしかこんな口付けしない」
離れた唇同士が頼りない糸でつながり、切れた。
真正面に向かせた千鶴は荒く呼吸を繰り返す。千鶴を見つめる総司の目が揺らいでいるのを、彼女は気づかない。
「君以外、僕をこんなに掻き乱す女性はいないんだよ。千鶴」
見開いた大きな目から流れた涙は、やはり総司のうちなるものを掻き乱す。性急な二度目の口付けは、抵抗されることなく受け入れられた。
不器用な愛だけれど、それでも君は両手を差し伸べて受け取ってくれる。
2010.10.09
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