君との別れが存在するこの世界を僕は好きになれない。でも君が存在するこの世界を僕は好きになる。矛盾してる?それでもいいよ。だって僕の世界は君が存在することで存在するんだから。


桜の季節が過ぎて、僕らはまたふたりで夏を迎えた。うるさい蝉たちに愚痴をこぼす僕をみて君は笑う。去年もこんなことあったね。そう思い出すだけでこんなにも胸が温かくなるのはどうしてなんだろう。

「総司さんは蝉が嫌いですね」
「嫌いだよ。短命なくせにわーわー喚いて悪あがきするんだもん」
「そんな言い方、蝉が可哀想じゃないですか」
「まったく、君は蝉にまでお節介がはたらくんだね」
「むう、総司さんひどい」

君のひざまくらで寝そべる僕の言い草は確かにひねくれている。下から見上げる君の顔は不機嫌そう歪んでしまった。ああ、そんな顔も可愛い。と思ってしまう僕はもう君の何もかもにほだされてしまってるんだなあ。思わずにやけてしまった顔を君に見られてしまい、しまった、と思った頃には時既に遅し。君の頬がみるみるうちに膨らんだ。

「笑うなんて…!」
「違う違う、これはにやけちゃったっていうか」
「つまり笑ったんじゃないですか」
「馬鹿にしたんじゃないよ、ただ千鶴が可愛くて」
「なっ!」

今度はみるみるうちに頬が赤らんだ。またにやける僕。

「君の拗ねる顔、怒った顔、悲しい顔もどんな顔も愛しい。もちろん笑った顔もね」

ああ、苦しそうな顔もそそられるものがあるよ。付け足すようにそういえば君は顔を真っ赤にして僕の頭を叩いた。その痛さすら愛らしいなんて、ほんとどうしようもない。

「…総司さんの馬鹿」
「そんな可愛いこと言う口にはこうするよ」
「え」

上体を起こして君の後ろ首に腕を回した。かぶりついた唇は小さくて柔らかい。緊張した息遣いが僕はたまらなく好きだった。

「そ、総司さん!」
「僕は見苦しく足掻く姿を見せるくらいなら静かに死ぬよ」

覗き込んだ君の瞳は大きく見開いていた。でもすぐに悲しそうにでもどこか怒りを含んだように歪んだ。

「だめです、足掻いてください」

僕の両頬を包む君の手はちょっと痛かった。きらめく薄い膜を張るその目から、目が離せない。

「見苦しいあなたすら愛しい私なんだから、足掻いて足掻いてもっと愛しさをください。生きなきゃだめです、総司さんは、私に愛されるために生きなきゃ、だめ、」
「千鶴……、お願いだからそんな可愛いこと言わないでよ」

後ろ首に回っていた腕を落として君の溢れたした涙を拭った。紡がれることばの全てが染み渡る。温かくて、愛しくて、君はどこまでも僕を愛に溺れさせる。

「なら僕は君に愛されるために、ただそれだけのために足掻くよ。君のためだけに、生きるよ」

千鶴。呼んだ名前がこんなにも優しいことを、僕はこれから先どれだけ思い知るんだろう。そんな未来を君が僕の一番そばで生きるなら、矛盾するこの世界で足掻いてみるのはきっと幸せだろう。少ししょっぱくなった柔らかい唇を感じながら、僕はそんな風に思ったんだ。

君が矛盾の壊柔者
僕の世界を成立させる


2011.10.30


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