少女は儚げな溜め息を漏らす。冬を迎え入れようとしている霜月に、その息は白く浮かんだ。そんな様子を廊下から見ていた左之は、庭先で掃き掃除をしている千鶴に話しかけた。

「どーしたんだよ千鶴、溜め息なんかついて」
「きゃっ、は、原田さん!」

急な声に驚いたのか千鶴は小さな悲鳴をあげ振り向く。その反応に顔を綻ばせた左之は石段の上にあった草履を履き、千鶴のもとへ歩み寄った。近くでみると千鶴の頬は紅く染まっており、左之が近付いてきたことにも驚いているようだった。

「だ、だめですよ!そんな薄着で外に出ては!」
「なーに、大丈夫だって」
「大丈夫じゃありません!私何か羽織るものを持って来ます!」
「おおっと」

自分の格好を見て慌てて羽織を取りに行こうとする千鶴を左之は立ちはだかるように止めた。そんな左之の行動にうまく対応出来なかったのか、千鶴はその胸に軽くぶつかってしまう。

「きゃ…っ」
「逃がしゃしねえよ、俺の質問に答えるまでな」
「っし、質問ですか?」
「ああ、さっき言ったろ?溜め息ばっかりついてどうしたんだって」

困ったように自分を見上げる千鶴に左之は知らず知らずの口元を緩ませる。千鶴はしばらく押し黙ったが、観念したようにその小さな口を開いた。

「…綺麗に、なりたいな、と」
「綺麗に、か?」
「…はい」

寒さで赤らんでいた頬が更に染まり、千鶴は消え入りそうな小さな声を続けた。

「ここで生活する以上、そんなこと思うのは不謹慎だとわかっているのですが…」

寂しそうに眉尻を下げて笑った千鶴に、左之はすぐに言葉が出なかった。彼女は女なのに、綺麗になりたいと願って当たり前なのに。その当たり前を俺たちは彼女から奪っている。その事実を今更に突きつけられ苦い思いをするのは身勝手だな、と左之は心のなかで自分に舌打ちをした。

「不謹慎なわけ、あるか」
「原田、さ…ん?」

戸惑った声をあげた千鶴は、目の前にいる左之のひどく寂しげな声色を耳に聴き入れた。視線をあげれば月のような金の目が切なく自分を見つめていることに気付く。そんな左之に、千鶴は照れるわけではなく、顔を逸らすわけでもなく、ただ、魅入った。

「お前は女だろ」

すうっと千鶴の頬に手を伸ばし、やさしく撫でながら左之は伝える。この肌のなめらかさ、柔らかさ、白さも、目も、鼻も唇も、小さな身体も。彼女の何もかもはこんなにも愛らしい。自分を見上げる潤んだ目に胸を焦がすほど。

「千鶴は、綺麗だ」

そう左之がやさしく告げた途端、潤んでいた目から静かに涙が溢れた。きゅっと唇を閉ざし声を圧し殺すように泣く千鶴に、その唇を指の腹でなぞりながら左之は重ねるように告げる。惚れちまうほどにな、と熱い声で。


君よ咲き誇れ


2010.12.07


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