※SSL


千鶴の周りにはいつも男がたかってくる。ああもう!ほんと嫌なんだけど!


「千鶴ちゃん、今日放課後ひま?」
「え、あ、はい。暇ですけど」
「よし、じゃあ今日の放課後は僕とデートね」
「へ?!いや、あの」
「おい総司!何ふざけたこと言ってんだよ!」

隣の席の千鶴に話しかけるのは1コ上の総司。なんで学年違うし教室もすげえ離れてるのにわざわざ休み時間ごとにここ来るかな、とは思うものの言ったところで聞く耳持たない奴なので敢えて言わない。そして来る度に千鶴のもとへ直行。容姿だけはむかつくほど良い奴だからクラスの女子もそうでない女子もとにかくうるさい。当の本人はそんなギャラリーには目もくれず、ひたすらに千鶴に話しかける。

「あーあ、もう平助邪魔」
「じゃっ・・・!?」
「せっかく僕と千鶴ちゃんがデートの打ち合わせしてるんだから引っ込んでてよ」
「いえ、あの私」
「何が打ち合わせだよ!千鶴困ってんじゃん!」
「え?困ってるの千鶴ちゃん」

悲しそうな顔をした総司に(わざとらしっ!)千鶴は更に困ったような顔を浮かべて「あう、えと、別に、困って・・・は」としどろもどろに返事をする。

「困ってないってさ」
「言わせだろそれ!」

素直で流されやすい千鶴の性格を熟知している総司はそこを嫌に突いてくる。俯いてしまった千鶴を見て胸が苦しくなる。思わず白い手を掴み、思い切り引っ張って立ち上がらせた。

「あ、ちょっと平助横取り!」
「うっせー!千鶴は今日俺と帰るんだよ!」
「そうなの?千鶴ちゃん」

再びお得意の悲しそうな顔をする総司に千鶴は慌てる。じれったくなってまた流されてしまいそうな千鶴の手を思い切り握りしめた。その手の強さに驚いたのか、千鶴は大きな目で俺を見上げ(う、可愛いっ)、その目をそらすことも出来ず出来るだけ冷静さを取り繕いながら見つめかえすと、千鶴は少し頬を染めて総司に告げた。

「・・・はい」

その声に内心驚きつつほっとすると、黒い笑みを浮かべた総司が俺を一瞬睨んでから告げた。

「・・・そう、約束なら仕方ないね。またの機会にするよ」

その目が少しも笑っていないことにぞっとしながら、逃げるように教室から出た。握りしめた手がわずかに握り返してきて、顔がかあっと熱くなった。





辿り着いたのは定番過ぎる屋上。基本解放の屋上にはよくサボりな奴らがいるけどどうやら今この時間にはいないようだった。少し息を切らす千鶴に大丈夫か?と問いかけると、心配させまいと千鶴は笑って答えた。

「ん、大丈夫だよ」
「あー、この時間じゃ3限目サボりになっちゃうな、わりい」
「ううん、ありがとう」

思ってもいなかった千鶴の言葉に思わず見つめてしまう。俺の視線に気付いた千鶴は恥ずかしそうに目をそらしながら続けた。

「その、助けてくれた、っていうのは変だけど。だから」
「ああ、総司の奴強引だからな」
「その、沖田先輩のこと嫌いじゃないんだけど、」
「わーってるよ」

困ったように説明する千鶴に思わず笑みが溢れた。そんなのわかってるんだよ、千鶴が総司を嫌いじゃないなんて事は。ただ、「付き合ってもいないのにデートなんて」とかそういう理由で困っているんだと。わかっているけど、わかっているから、なんだか総司と一緒にいる千鶴を見ると切なくなった。

「総司はさ、不器用なんだよ」
「・・・うん」
「別に俺だって、総司嫌いじゃねえよ?」
「うん」

少しだけほっとしいたような表情を浮かべた千鶴にこちらもほっとした。そんな話をすると何とか避けていた問題に直面する。まだ右手にはしっかりと千鶴の手があって、握り合っている。

「・・・千鶴」
「あ、なに?」
「その・・・さ、」

手、と続けると千鶴の顔はさらに赤くなった。

「・・・うん」

俺の言葉を聞いても千鶴は握りしめる手の強さを弱めはしなかった。そのことが嬉しくて、俺は一層にその手を強く握りしめる。

「その、なんだ。もし、また今日みたいな事があったら、さ」

千鶴の方は向けずに明後日の方向を見ながら言う声は情けなくも少し震えている気がした。

「俺のこと、口実に使っていいから」

それが今の俺の精一杯で、鈍感な彼女にこんな言葉で伝わるのだろうかと内心不安だったが、俯いた彼女は耳まで紅く染めて小さくうなずいた。

「千、鶴」

その仕草にどきりと心臓が大きく跳ねた。名前を呼びながらうつむいたその顔に手を滑らせると、千鶴は小さく息を吸い、大きな目で俺を見つめる。その表情に、息遣いに、握り合う手の熱に。引き寄せられるように顔を寄せた。千鶴の目がだんだんと細められていくのが見えた。その瞳が見えなくなるまで、そして見えなくなった頃には唇に柔らかくてしっとりと湿った感触が。その気持ちよさに俺も目を閉じ、集中する神経を確かに味わった。空いた方の手で小さな身体を引き寄せぎゅっと抱きしめると、彼女の口から吐息のような甘い声が漏れて、たまらなくなって、一度唇を離した。

「千鶴、俺」

胸が苦しい、喉が熱い、鼻の奥がつん、と痺れる。
それでも、今言わなきゃと心が急かす。

「好きだ」

見つめる千鶴の瞳から綺麗な雫がこぼれ落ち、顔を包む俺の手に落ちた。震える声で彼女は告げた、

「私も、好き」

こんな至近距離でなければ聞こえないような小さな声で。それまでの俺たちの関係を通り越していく言葉が。つん、とした痺れは目頭まで上ってきてなんだか泣きそうだった。
ああ、ほんと綺麗だ。幼い頃からずっと一緒で今までいろんな千鶴を見てきたけれど、こんなに大人っぽい表情をする千鶴は知らない。こんなに、俺を熱くさせる千鶴を。

「好きだ・・・」

もう一度告げるとまたひとつ、ふたつと千鶴の目からは涙が溢れた。その涙を拭いながら触れるだけのキスを繰り返す。触れるほどにもっと求めてしまう、でも、今はこの満たされる心が在るから。キスのあとにその身体を両腕で包み、確かめるように逃がさないように分かち合うように、溢れる想いごとぎゅっと強く抱きしめた。


その先は知らなかった君を知る為の毎日。


2010.10.09


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