「え、今日なんですか?」
「うん、男児の成長を願う日に生まれるなんて、お目出度い人だよね」

何かを企んでいるかのように笑った総司を見上げ、千鶴はぱあっと嬉しそうに笑った。

「そうなんですか!すごいですね!」
「……そういえば君もお目出度いうちの一人だった」
「え?」
「ううん、ひとりごと」

嫌味たらしく言ったつもりの総司だったが、天然鈍感な千鶴にそのようなことが通じる筈もなく。不発に終わった自分の言葉をひとりごとにした。

「まあどうせ祝ってくれる人なんていないんだろうから、君が祝ってあげなよ」
「私が…ですか?」
「うん、喜ぶと思うな」
「…そうでしょうか」

困ったように笑った千鶴を見て総司はくすりと笑う。本当に鈍い子だなあ。今のあの人を一番癒すのは君一人だというのに。自分よりかなり低い位置にある千鶴の頭をぽんと優しく叩き、見上げる瞳を覗き込みながら総司は告げる。

「少なくとも僕に祝ってもらうよりは、ね。近藤さん以外の人は多分知らないと思うし」
「…わ、わかりました。頑張ってみます」
「うん。頑張って」

両手の拳を力強く握って意気込む姿を可愛いと思う。でも仕方ないから、可哀想だから、今日はあの人にこの可愛い子を譲ってあげよう。いつになくふわりと笑った総司を見て、千鶴も同様に笑った。


「土方さん、お茶をお持ちしました」
「おう、入れ」

静かに障子を開いた千鶴の目に映ったのは相変わらず忙しく働く土方の姿だった。ご自分の誕生日くらい休まれたらいいのに。思わず口を突きそうになる言葉を呑み込み、彼が好きだと言ってくれる茶を差し出した。

「すまねえな、いつも」
「いえ。これぐらいしかお役に立てませんから」

千鶴が淹れた茶を飲みながら話す土方に、千鶴は出来るだけの笑顔を向ける。祝ってあげなよ。総司の言葉を思い出すと緊張で顔が強張ってしまいそうだった。土方はそんな千鶴をじいっと見詰めた。

「千鶴」
「は、はい」

急に名前を呼ばれて跳ね上がった千鶴の心臓。拍子抜けな返事をしたせいか土方の口からは小さな溜め息が洩れた。千鶴はおずおずと窺うように土方を見やる。

「お前、何かあったのか」
「えっ、ど、うしてそんなこと」
「馬鹿野郎、顔に思いきり出てんじゃねえか」
「ええ?!」

思わず自分の両頬を押さえた千鶴を見て土方は苦笑いを浮かべた。千鶴はといえばしまった、という顔で硬直した。

「で、どうしたんだ」

驚くほどに優しい声音で窺ってくる土方に千鶴の心臓がとくんと鳴った。どうしよう、今かな。今、言ってもいいのかな。私が言っても、いいのかな。お誕生日おめでとうございます、って。そう伝えようとして幾度となく唇を開くもうまく声にならない。しかし「ん?」と尚も優しく窺う土方を前に、そんな千鶴の小さな葛藤は蕩けていく。

「あ、の」
「おう、言ってみろ」

震える唇で告げる。

「お誕生日おめでとうございます!」

勢いづいた声はふたりだけの室内によく響いた。熱い顔のまま土方を見つめる千鶴。しばらく大きく目を見開いて固まっていた土方の第一声は。

「あ?」

なんとも間抜けた声だった。それを聞いた千鶴は慌てて説明をする。

「お、沖田さんが教えてくださったんです!今日が土方さんのお誕生日だって。それで、お祝いしてあげたら?って。だ、だから」

半ば泣きそうな顔でそんなことを言う千鶴を見ていた土方は思わず吹き出した。

「あ、あの…?」
「っい、いや、わりぃな。お前があんまり必死だからよ」

ありがとな。笑いのあとにふと聞こえたそんな声に千鶴ははっとなって目を見開いた。鬼の副長として恐れられているとは微塵も思わせない柔らかな笑顔で千鶴を見つめる土方がはっきりと映る。そんな土方に一瞬驚いた千鶴だったが、込み上げる嬉しさを開花させる花のように笑った。

「んだよ、こんなこと言うぐらいであんなに口どもっりやがって」
「こ、こんなことって…。大事なことじゃないですか!」

思い出して再び笑う土方に千鶴は頬を膨らませながら反発する。

「大事なこと、か」
「そうですよ!」
「…そうか」

意気込む千鶴の姿に胸の中にはあたたかな感情が芽生え始める。すると嬉しそうに微笑み続ける千鶴が、何かを思い出したように表情を変えた。

「それであの…私、贈り物何も用意してなくて」
「贈り物だあ?」
「だ、だってせっかくのお誕生日ですし」
「ったく、変なとこでこだわりが強い奴だな」
「へ、変って…」

眉を八の字に曲げた千鶴を見て土方は笑った。全く、変な奴。変で、でも律儀で、情に厚い。人の為に何かをすることが当たり前のこいつにとって、俺に何かをしたいと思うことは寧ろこいつらしいのかもしれない。

「よし。じゃあ物は要らねえから今晩俺の酌をしろ」
「わ、私がですか?」
「お前じゃなきゃ意味ねえだろうが」

さらりとそんなことを言う土方に千鶴は顔を薄桃色に染め上げた。にやり、笑った土方の唇が声には出さず象る6文字。その言葉に、千鶴は顔を真っ赤に染め上げる羽目になる。

「可愛い奴」



今日という日は俺にとって大切な日


2011.05.06 土方誕


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