携帯電話の着信画面には大好きな彼の名前。すかさずチェックした内容に思わず顔の筋肉が緩んだ。

―海、見に行かない?

考える間もなく返信画面に「行く!」と打つ。椅子に掛かっていた上着を羽織り、居間にいるおばあちゃんに声を掛けてから家を出た。頬を撫でるこの夜風を、早くふたりで感じたいと思った。

「やあ、早かったね」
「ス、スガタくん!」

神社の階段を下りたところで吹き渡る夜風のように穏やかな声が聞こえた。間違えるはずのないその声の主、スガタくんはにこにこと笑っている。まさか下まで来てるなんて思っていなかった私は、大げさすぎるリアクションをしてしまった。

「はは、そんなに驚く?」
「え!だ、だってまさか来てると思わなくて」
「いくら近くだからってこんな夜に女の子をひとり歩かせるわけにはいかないだろ?」
「・・・か、過保護だよ」

思わず頬はかっと熱くなった。そんな私にスガタくんはくすくすと笑いながら当たり前のように言う。

「全然、当然のことだよ」

さ、行こうか。そういって差し出された彼の手に、私は頬を火照らせたまま自分の手をのせた。きゅっと握られて、心臓も一緒にきゅっと握られた感覚になった。

「でも、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ急に誘ったのに来てくれてありがとう」
「それは!・・・私もちょうど会いたいなって思ってたか、ら」
「・・・あまり嬉しいこと言うと家に帰せなくなるよ」
「え?!」
「じょーだん」

今度は身体中が熱くなって、でもスガタくんは楽しそうに笑うだけだった。ずるい、なあ。なんだか私ばかりドキドキしてるみたいで。昔からついつい拗ねると頬を膨らませてしまう自分の癖は未だ健在のよう。

「でも、冗談だけど、半分本気なんだよ?」
「え?」
「って、僕矛盾してるな」

そう言って誤魔化すように笑ったスガタくんの頬も、ほんの少しだけ紅く染まっているように見えた。その様子が妙にうれしくて、繋ぐ手に少しだけ力を込めた。そうしたらスガタくんはふわりと顔を綻ばせて握り返してくれた。

「・・・っぷ、あはは!」
「笑うことないだろ」
「だって、可愛いから」

そんな私の言葉に今度はスガタくんが拗ねる番で、ぐいっと少し乱暴に手を引いて歩き出した。私は余計に笑ってしまって、なんとか堪えるのに必死だった。そうしてるうちに目的の海に到着。昼間見る青とは違う、夜空に融けてしまいそうな濃紺をみせる海はいつみても、何度見ても神秘的で綺麗。その景色をみるとき、必ずといっていいほど大好きなスガタくんが隣にいる。それがどれだけ幸せなことなのか毎回思い知る。

「・・・機嫌なおった?」
「まあね、ワコも随分意地悪になったな」
「スガタくんのがうつったんだよきっと」
「僕のせいか」
「そうだよ〜!・・・ってごめんごめん、拗ねないで」

ふい、っと顔を向こう側に向けてしまったスガタくん。でも繋いだ手は離さないだなんて、やっぱり可愛いと思ってしまう、けど口にしたら余計に機嫌を損ねてしまうので言わない。

「でもそれだけずっとスガタくんといるってことだよ?」
「・・・うまく誤魔化そうとしたって僕は聞かない」
「もう、誤魔化しとかじゃなくて!」

そうじゃなくて。これは紛れもない本心。

「なんて、いうのかな。その・・・こうして同じ場所で同じ景色を眺めるとき、いつもスガタくんが隣にいるってことがすごく幸せで」
「・・・・・・」
「うーん、うまく言えないんだけど。・・・それでずっとスガタくんのこと近くで見てたから」

だから、きっとうつっちゃったんだよ。我ながらまとまりのなさすぎる言葉だと思ったが本当の素直な気持ちなのでこれ以上の言葉はないと思った。私の言葉に彼はしばしの間固まっていて、私がおそるおそる名を呼ぶまで数回まばたきをするだけだった。

「あの・・・スガタくん聞いてる?」
「え・・・あ、ああ。なんかすごく照れくさいこと言われてる気がして」
「えっ!?て、照れくさかった!?ごめっ」
「ごめんなんて言わないでよ、今すごく嬉しいから」

そう言ってわたしの方に顔を向けたスガタくんはほどけるように笑った。夜空を照らす月みたいに優しい笑顔。とくん、と心臓が鳴って、その音ごと身体を包み込まれた。スガタくんの両腕は、否応なしにやさしい。

「ワコの言葉に嘘なんてない、それは僕が一番知ってる」
「う、うん」
「ワコが素直になってくれたから、僕も素直に言うよ。ありがとう、ワコを好きになって僕も幸せだ」

どこぞの少女漫画でしか聞いたことの無いような台詞も、スガタくんが現実へと変えてくれる。恥ずかしいけど嬉しくて、涙が出そうなほどに嬉しくて、私もスガタくんの背中へと腕をまわした。スガタくんの匂いに包まれて、幸せすぎてどうしようもなかった。

「これからもずっと、ふたりで幸せになろうね」
「ああ、だからずっと僕のそばにいて、ワコ」
「誓うよ、だからスガタくんもずっと、そばにいてね」

そして誓いのキスをした。引き寄せられ合うみたいに、どちらともなくキスをした。そんな私たちを見守っていたのは、幼い頃からずっと私たちと共に在った海と、空と、彼の瞳と同じ色をした月だけだった。



永遠よりももっとずっと誓います。



2011.04.10


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