自分のベッドの傍らで眠っている少女は、傷だらけの手で同様に傷だらけの俺の左手を握っていた。じんわりと伝わってくる少女の温もりが、頬に残る涙の跡が俺をどうにかしそうになる。上体を起こそうとするも身体中が悲鳴をあげ思わず呻き声を漏らしてしまった。ぎゅっと力の入った掌から、彼女にも伝わる。黒く長い睫毛がふるりと震え徐々に持ち上げられる。その下から覗いた黒い目がぼんやりと俺の姿を映した。

「ラ、ビ」
「あー、・・・おはようさ、リナ・・・」

少女の名を呼ぼうとした自分の声が奪われた感覚だった。涙の跡をなぞるように伝い落ちていく雫が俺の心臓を鷲掴みにする。止めどなく流れるそれを止める術を今の俺は持ち合わせていない。ただ静かに、声も上げずに俺を見つめながら泣く彼女を綺麗だな、なんて思うだけだった。強く握り返してくる手に答えるように、さらに俺も強く握った。

「リナ、リ」
「ラビ・・・っ、よか、った」
「リナリー」

今すぐ、抱きしめたかった。でもそう出来ない俺の身体は相当にダメージを受けているようだった。そういえば、どうやって教団まで戻ってきたんだろう。記憶が曖昧に錯綜するもそれらしいものは一切ない。ただ目を覚ましたら彼女がいた、泣いて、くれた。胸が痛くて、苦しくて、でもひどく幸せに満ち足りていて。思わず俺の目頭も熱くなった。

「心配、してくれたんさ?・・・ありがとな」
「当たり前じゃないっ、心配、したよ、怖かったよ」
「・・・ん、ありがとさ」

涙が零れないようにゆっくりと目を閉じた。掌から伝わる彼女の温もりが俺の心を行ってはいけない方へと誘う。だめだ、戻れ。お前の居場所はそこじゃない。そう制止する自分自身の声も聞かず体温をより共有するために更に、更に強く握りしめた。すると彼女が小さく笑った気がした。つられて俺も笑うと、ふと髪に何かが触れる。ふわりふわりと壊れ物を扱うように優しく触れるそれは、今俺の左手に感じる温もりとなんら変わりなかった。

「・・・リナリ」
「今はまだ眠っていいよ、ずっと、そばにいるからね」

とても目は開けられなかった。今彼女の姿をこの目に映したら、きっと涙が溢れてしまうから。それでも瞼には笑う彼女が焼き付いていて、残像が俺のすべてを占拠する。なおも優しく俺の髪を撫でる手は、俺の左手を握りしめる手は、彼女の両手は俺を翻弄し安心させる。どうにもならないその狭間で、ゆるやかに響く彼女の声を子守唄代わりにひとことだけ言って眠りへと身を委ねた。

「ずっと、な」



僕にずっとはないけれど、



2011.03.22


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