あとどれくらいの月日を一緒に過ごせるか、いつの間にかそんなことを考えなくなっていた。あまりに優しくて柔らかいこの時間に終わりが来るなんて思えなかったんだ。でも、現実は幸せほど多く奪いたがって、俺と彼女を引き離そうとする。

「ラ、ビ」

教団の門の前で、彼女は小さく俺を呼んだ。きっと今日限りでおさらばのこの名が最期を必死に探している。彼女の声がこの名を呼ぶたびに刻まれてきた幾多の想いが溢れ出しそうだった。

「リナリー、最後に俺を許して。そんで言わせて欲しい」

揺らぐ瞳の瞬きで肯定を差し出した彼女に、ひとつ呼吸をして告げる。

「好きだよ、どうにかなりそうなほどに」

自分でも少し驚くくらいすんなり声になった言葉は、今までどんなに伝えようとしても出来なかったものだった。別れの威力は絶大で、最後だから、とひとこと付け足してしまえばこんなにも容易く想いを伝えられる。枷が無くなったように溢れた彼女の涙を指で拭って触れるだけのキスをした。

「わたしも好きだよ、ラビ」

そう言って笑った彼女に「ありがとう」と言って背を向けた。もっと触れていたい。焼き付けるように。そんな想いを振り払って手に持つ荷物はひどく重い。すでに外で待っているだろう師の元へ踏み出す一歩もひどく重かった。さよならは言わずに……言えずに。最後に交わした愛の告白とキスの記憶を、頭と胸の一番奥にしまい込む。泣きはしない、せめて彼女に見送られる時までは。だからこの門が閉じて、もう何もかもが思い出だけになったら、そうしたら最後の最後に彼女を想って泣かせてくれよ。


ただどうか、「幸せだ」と言える幸せが君にありますように


2010.08.28


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